美しい旅路
実にコンパクトでシンプルな構造の作品なのだが、深い余韻を味わえる作品である。
余計な説明を省いているのに、マドレーヌが波乱万丈な人生をいかにして力強く自分に正直に生きてきたかを感じることができた。そして自分の人生を愛することの大切さ。
マドレーヌがシャルルに語りかけ、巻き込み、対話となり、絆へと変わっていく様子がタクシーの車中という狭い空間の中だけで表現されている演出が素晴らしい。
マドレーヌが車中から眺めるパリの街並みは視線が低く、街と人間の営みが一体化して街の匂いまで感じることができそう。
一方、ふたりが車を降りてひと息つくパリの街はふたりの人生の背景でしかなく無機質な存在でしかない。
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この作品を観て、ひとりの大先輩を思い出した。もうすぐ亡くなって10年ほどになろうか。母と言うには若く、姉というには歳が離れたステキな女性だった。まだまだ新婚という時期に伴侶を亡くされ、一人息子さんもとても若いうちに亡くされた方だった。私が出会ったのは、彼女が「初老」と言われる年頃だった。いつも明るく節度をもってお酒を飲む人で(量はなかなか)、若くて生意気な私をたしなめたり励ましたりしてくれた。
癌が進行していく中でも、実に明るく「形見分けよ!」とご愛用のアクセサリーをいただいたことが昨日のように思い出す。マドレーヌの92歳よりはお若かったけど、同じように説教臭くない語りが似ていて懐かしくなり涙がでてきた。