ジャン黒糖

アイデア・オブ・ユー ~大人の愛が叶うまで~のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

3.4
マイケル・ショウォルター監督作の感想を書き続けて遂に最新作。
今回は40歳のシングルマザーと20代のアイドルという住む世界も年齢も異なる男女の恋愛模様が描かれる。
主演は人気女優アン・ハサウェイとブレイク真っ只中の若手俳優ニコラス・ガリツィン。
監督作に共通して見られる特徴が散りばめられていて楽しめた一方で、お話自体はもう一捻り欲しかった…!

【物語】
40代のシングルマザー、ソレーヌは娘イジーと彼女の友達の付き添いで参加した音楽フェスティバル・コーチェラで、偶然にも人気ボーイズグループ「オーガスト・ムーン」のヘイズと出会う。
ソレーヌは数年前に夫の浮気が原因で離婚し、一方のヘイズは10代の頃から芸能界で活躍するなかで自身の存在意義に漠然と不安を感じていた。
そんな互いの想いに触れた2人は、図らずも恋に落ちるのだが…。

【感想】
監督のフィルモグラフィを追いながら観ると各作品の作風の点と点が結ばれ、自分なりに思う作家性が見えてくることがある。

一般人と有名人の年の差恋愛という、それこそ『ローマの休日』『ノッティングヒルの恋人』や最近だとジェニファー・ロペス&オーウェン・ウィルソン主演『マリー・ミー』など、これまでも何度も作られてきたベタ中のベタな恋愛映画でありながら対話による関係性を丁寧に描いていてこの辺りは流石はマイケル・ショウォルター監督!

人気ボーイズグループ「オーガスト・ムーン」でリードボーカルを務めるヘイズは、これまでの経緯をソレーヌに語る際、俳優になる道を選んでいたら自分はグループにいない、代わりに誰かがいる。では自分とはなんなのか」と語り、家族との信頼関係を築く難しさを吐露する。
一方のソレーヌも長年家族だった元夫ダニエルの浮気で離婚し、信じてた存在が信じられなくなっている。
お互いに負の符号が合致した2人が恋に落ちるまでの会話は説得力があって良かった。


『タミー・フェイの瞳』の感想にて、監督作に共通するメッセージとして「強い自己肯定感を持ってすればそれだけで自身の幸せは掴めるが、それだけだと独りよがりの幸せに過ぎず自分のせいで却って大切な人を傷付けかねない。だからこその心の底からの相互理解の大切さを描く」と書いたが、本作もタイトルが示すようにまさに監督の作家性まんだった。

作品の扱う内容的には年上女性と若い男性の恋模様を描いているという構図において同監督作『ドリスの恋愛妄想適齢期』に似ている。
ただ、あちらが主人公ドリスの一方的な妄想で浮き足立ってしまう滑稽さと切実さが描かれたのに対し、本作はより"相互理解"を描くことに重きを置いているように感じた。

たしかに、監督がこれまで描いてきたような、年齢差・人種・宗派などを超えて誰もが個人の自由や幸せを追求する権利があることの大切さを本作でも描いている。
『タミー・フェイの瞳』では反同性愛を説く教団の意向をよそに、タミーがエイズ患者やLGBTQ+コミュニティと接する姿が描かれ、一度はスキャンダルに晒されたものの、結果彼女個人の再評価へと繋がった。
本作でも、若者に人気のボーイズボーカルグループのヘイズと40代のソレーヌの年齢や世間からのイメージを超えた恋愛模様が描かれる。

アイドルとの恋愛ともなると、世間が抱く一方的な「イメージ」や「期待」が時に実際の当事者同士の関係性や感情を曇らせてしまうこともある。
ただ真に大切なことは、映画のタイトル『アイデア・オブ・ユー』が示すように、そうした周囲の人たちからのイメージを超えて、相手の本当の姿を理解し受け入れることにあるのだと、この映画は教えてくれる。


ただ、本作はそれだけでは2人の幸せに限りがあることを作品のバランスとしてむしろ強調して描いているように思った。
『ビッグ・シック』でも、ムスリムの移民クメイルが、アメリカにいながらイスラムの教えに従って生きることを望む母の想いとは裏腹に白人の恋人エミリーと交際するなかで生じる人種・宗教の価値観の違いによる衝突を描いてきた。

本作でも、娘イジーほど歳が離れていることでバカンス先でヘイズの仲間たちから向けられる目線や、関係性が公になることで生じる元夫や娘との関係の拗れなど、2人が幸せなだけでは済まない話が度々出てくる。

だからこそ、「舞台のうえからプロポーズ」などと言ったベタに見せ場のある映画らしい結末にはさせない、終盤にある決断をする2人の姿にはある程度理解できた。



ただ…ただですね…
ここからは苦言めいたコメントになるけど、もう少し設定に捻りが欲しかった…。


後半に行くにつれ、2人を取り巻く周囲の存在はかなり背景化しており、それゆえ2人が決断したラストも、結局は2人だけが考える2人なりの幸せになっちゃってないか?とモヤモヤも残った。
娘イジーが受けた学校での被害や、元夫ダニエルと再婚していたエヴァの打ち明けてくれた話、ダニエルとイジーの関係、ソレーヌの良き理解者兼親友、昔からの友人サラの絵…など、ソレーヌを取り巻く周囲との関係に気になるエピソードを散りばめながら、結果どうなるのか示されない、というか単に描けていないように感じた。
ラスト時点のソレーヌをイジーはどれくらいの距離感で接しているのか、解釈しようがあるのもモヤモヤしたポイントだった。
ダニエルとか、お前も中盤までは憎き元夫として良い味出してたけど、後半中途半端な活躍でどうした?!ヘイズと付き合うソレーヌを見て一言言ってるアンタ、そのセリフまんまお返しするぜ!笑

一方のヘイズも、ファンやパパラッチの存在は背景化どころか、存在感すらなかったし、彼が所属するボーカルグループ「オーガスト・ムーン」も、その後どうなったのかいくらでも考える余地はあるけれど、単に描き足りていない気がした。



ただ、「オーガスト・ムーン」の楽曲はまさにワン・ダイレクションを彷彿とさせ、懐かしさが良かった!
映画冒頭、ダニエルの家に向かう車のなかでソレーヌの娘友達がテンション上がりながら歌う「I got you」の歌詞はこれからのソレーヌとヘイズの関係を暗示させる。

ソレーヌとヘイズが出会うことになるコーチェラで歌う「Guard Down」はファンが盛り上がること必至なお決まりヒットナンバー、と"中ニ病"感満載で笑ってしまう笑

探すと彼らの公式Instagramもあり、ちゃんと写真や動画の投稿が充実してたのも良かった。笑


あー、ニコラス・ガリツィン、かっけぇなぁ。
他の作品も観てみよう。

アン・ハサウェイ、綺麗過ぎますよ!マジでいっときのジュリア・ロバーツみたいな輝き!あなたが相手なら年の差関係ないわ!!笑
あんな肩書きプロフィールだけ充実した若い女たちの声なんて、わかってると思うけど無視無視!笑

そしてマイケル・ショウォルター、コメディ畑出身で、会話の内容や間の取り方で笑いを誘ったり登場人物たちの関係性を描くスタイルが上手だなぁと思ったり。
どの作品も、決して「最高!!」とまではいかないけど、どれもなにかしら満足感が一定あるので今後も楽しみな監督になった。

新作はクロエ・グレース・モレッツ、フェリシティ・ジョーンズ、ミシェル・ファイファーら豪華共演のホリデーコメディ『Oh. What. Fun.』がそろそろ撮影控えているところ、とのことでこちらも楽しみです!
ジャン黒糖

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