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福田村事件のKuutaのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.4
関東大震災100年に合わせ、現代的テーマを織り込みつつ福田村事件を再現する、この企画の姿勢には100%同意するし、描こうとしたものは描けていると思う。

しかし映像作品としてどうか?と言われると、これくらいの評価に落ち着く。森達也がこの企画を進めていると知った時の喜びは大きかったが、事前の期待を上回ってはくれなかった。

井浦新と田中麗奈夫婦が村に降り立つ冒頭から、撮影の問題なのか、現代人にしか見えず、没入が難しい。女性記者の描写を始め、震災後の緊迫感の高まりはセリフ先行が目立ち、アクションに昇華できていない。

川を渡らなければ辿り着かない「島国性」の強調、桶を持ち歩くコムアイなど水絡みの演出は悪くないものの、橋を渡って「対岸」に辿り着く行商団と、漂流していく夫婦のラストの対比はパンチ不足。前半のドラマをもっと回収できなかったか。白磁と豆腐、白の使い方も、作り手の目配せは感じるのだが中途半端。

森達也はメディアが画一的に報じた、或いは報じようとしなかった人にスポットを当て、知られざる内面を抉り出してきた作家だ。今作もその延長線上にある。

しかし、瑛太や東出昌大ら「観客側」のキャラクターに高身長の役者を配し、村人との目線の違いを作ることで空間を線引きしていくこの映画は、彼のドキュメンタリーが描いてきた虚実皮膜の泥沼に私を引き摺り込んではくれなかった。68点。
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