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ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のKuutaのレビュー・感想・評価

4.1
・混沌を秩序立てて理解するヴェルクマイスター音律。音を人工的に分解し、12音に押し込める。村にやってきたサーカスをきっかけに、そうした間違った秩序は壊されるべきだという怒りが爆発する。タルベーラ曰く「文明と未開の衝突」。しかしバキバキの長回しで構成されたこの映画が一番の秩序じゃね?という疑問をどう捉えていいのか、鑑賞から時間が経ったが答えがまだ見つからない

・巨大な人工物がヨーロッパの古い街並みに持ち込まれる違和感。トラックのコンテナのデカさ。ヘリがめっちゃ浮いてる、いやヘリなんだから当たり前なんだが

・クジラは本物の剥製で、人工の世界をかき乱す、唯一の混沌側の存在なのかと思って見ていた(尻尾だけコンテナの暗闇から現れる場面のワクワク感)。しかし、暗闇に身を潜めた神秘的な姿は、ラストシーンで無惨にも全身をあらわにされる。その見た目は明らかに作り物。つまり全てが人工物なんだとわかって、底が抜けたような感覚に陥った。光と影を行ったり来たりしながら、どこにも中心のない世界の空虚さに向き合わされる。人々は‘’プリンス”のオートチューンのような正気の無い声に先導され、暴動を起こすが、その先に待つのは老いた男の裸でしかない。女性は暴行されたと伝えられる

・対する主人公ヤーノシュは「凡人にもわかるように永遠を見せる」という。火を消す動作から始まり、閉店しかける店に割り込む彼は、光あれと天地創造を演じる。この場面の多幸感は素晴らしい。彼は演劇という虚構で世界や群衆に秩序をもたらそうとする点で、プリンスの対極にいる。

→ヤーノシュJános=ヨハネのキリスト教vs非キリスト教の戦いにも見える。同じく語源で考えれば、キリスト教に対抗するプリンスはprinciple、根源の原理。

・広場に佇む人に話しかけてもなぜか会話にならない。彼らは個ではなく群衆になっている。イデオロギーなき民衆の怒り、暴力的に人工物が持ち込まれたことで噴出する怒り。銃を持った警察官とフレーム内フレームで踊る場面は秩序の崩壊を目前にした綱渡りを見ているようだった。ポスト冷戦の東ヨーロッパの空気とも言えるが、9.11後の世界観を2000年の時点で掴んでいるのが驚き。
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