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機動戦士ガンダムSEED FREEDOMのsatoshiのレビュー・感想・評価

機動戦士ガンダムSEED FREEDOM(2024年製作の映画)
4.0
 制作発表から10数年の時を超え、遂に公開された「SEED」劇場版。正直、公開決定の報を聞くまで色々な事情から企画は頓挫したのだろうと思っていた。だから、公開決定の報は非常に驚いた。「SEED劇場版・・・完成していたのか」と。

 「SEED」シリーズは我々90年代生まれにとって特別な「ガンダム」だ。おそらく、初めてリアタイした「ガンダム」が本作という人間は非常に多いと思う。私はリアタイしようとしたが、小学校低学年に身にはあのドロドロした人間関係は見ていてキツく、20話くらいでリタイヤした。そして高校生で「運命」含め全て視聴してあの終わり方に「何じゃこりゃ!」と思ったのだった。とはいえ、私もゼロ年代を生きた男として、本作を見ないという選択肢はなく、HDリマスター版を全話視聴の上、鑑賞した。

 「何なら徹底的に批判してやる!!」ぐらいの気持ちで行ったのだが、見終わって、非常に清々しい気持ちになった。俺が初めて「SEED」を見てから感じていた数々のわだかまりが氷解していくような、そんな穏やかな気持ちになってしまったのだ。おかしい。「種」なのに・・・。この理由は単純で、まず、HDリマスター版で「運命」の印象がかなり良くなっていたことがある。そしてそれを踏まえ、本作では「運命」で内面が掘り下げられなかったキラと、新興宗教の教祖とまで言われたラクスに焦点が当てられ、あの2人の掘り下げがなされていたからだった。この意味で本作は「運命」の後日譚と言える。

 キラは「運命」では内面が全く描かれず、シンに対する絶対的な正しさとして君臨していた。しかし、本作では「SEED」時代のように悩んでいる彼の姿があった。また、ラクスは初めて出生の秘密が明かされ、彼女の教祖的な能力に裏付けがなされた。そしてその上で、自らの定められた運命ではなく、意志で進んでいくことを描いており、「SEED」の完結編として、結構納得がいく終わり方だった。

 また、散々ネタにされてきたアスランだが、本作での株の上がり方が尋常ではない(本作と某ジャンプアニメのCV石田彰キャラのせいでまた新たにネタにされまくっているというのはこの際措いておく)。まさかアイツがキラに説教してぶん殴る日が来るなんてな・・・。そしてまさかのアスカガが生きていたという事実!。更に、煽りスキルが上昇していたり、八面六臂の大活躍だった。

 シンも、キラの忠犬になっていて、報われなかった彼がようやく彼の素直なところがいい方向に働いているのを見て本当に嬉しくなっちゃったよ。その代わりアスランへは喧嘩腰なのは笑った。ただ、彼とルナがレクイエムを破壊するところは、「運命」の対比になっていて、とても良い展開だった。本当の意味で彼はオーブを救ったのだ・・・。

 また、脚本的にも、基本的にNTRという点で、非常に「SEED」。すれ違いがドロドロした展開に繋がる序盤は「これが・・・SEED!!」と思いながら見ていた。しかし、脚本家が代わったと思われる後半からは物語が一気に加速し、とにかくファンサの連続になる。この怒涛の展開で往年のファンは大満足だと思う。後、出てくる奴らが軒並み煽りスキル高めなのもSEED!。イザークとディアッカの成長、ムウさんがまた奇跡を起こし、ステラもまた登場し、桑島法子のキャラは死なないし(でもフレイみたいな奴だった・・・あれはいらなかったのではと思う)、ファンが見たいものを矢継ぎ早に見せていく。

 本作には正直、問題点もとても多い。相変わらず人死にすぎとか、演出が古臭くないかとか、核兵器をそんなに簡単に撃てるようにするなよとか、最後の決着にロジックがまるで無いとか、かなり気にはなる。しかし、そんなものは知ったことかと言わんばかりのファンサの連続により、強引に説得させられてしまうのだ。

 後、本作はまた違った見方ができると思っていて、それは本作が福田監督から両澤さんへ捧げられた作品だということ。劇中のキラとラクスの関係性、そして、作品全体のテーマ「才能などではない。その人を愛しているのだ」という台詞に、放送当時、ネットで叩かれまくりながらも脚本を執筆した両澤さんと、それを支えた福田監督の関係がダブって見えた。本作のキャッチコピーは「私の中にあなたはいます。あなたの中に私はいますか」。これは多分、福田監督から両澤さんへ「今でも私の中にあなたはいます」というメッセージだったのだと思う。
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