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またヴィンセントは襲われるのsatoshiのレビュー・感想・評価

3.7
 何気に1100Mark目。

 ある日、目が合った人間から理由なく襲われるようになった男、ヴィンセントの苦難を描く不条理劇。予告を見て面白そうだったので鑑賞したのだが、これが想像以上の拾い物だった。

 「目が合う」ことは人と人のコミュニケーションの中で最も基本的なことだと思う。本作では「目が合う」ことはそのまま暴力に発展してしまう。これに現代の不条理な暴力、疑心暗鬼になる人間の隠喩をみることは容易だと思う。対処法として、「目を合わせない」つまり、コミュニケーションを取らないという選択がある。しかしそうなると、孤独になる。人は孤独では生きられない。インフラ的な面でもそうだけど、人は基本的に他者を求めるものだから。ヴィンセントも例外ではなく、孤独に苛まれてしまうが、犬を飼い始めてからようやく表情が和らぎ、女性との交流を通して少しずつ元気になっていく。本作はワンアイディアの不条理劇でありながら、最終的にはこうした人と人の関係性、言ってしまえば愛の物語に着地する。この流れがとても上手いなと思った。

 本作は突発的に暴力が起こるのだが、その見せ方が上手い。原因が分からないうちはホラー的な演出がなされていて緊張感があるし、襲われ方もバリエーションがある。しかしそれは序盤で、後半はだんだんシュールなコメディみたいになってくるわけだが、これはこれで面白い。ヴィンセントも、この手の作品の主人公としてはあまりアホな行動はとらない。後、犬が有能。難点としては、終盤、場所の距離感が曖昧になっていったことくらいかな。

 余談。主演のカリム・ルクルー、見た目がトム・ハーディに似てて、そんな彼が車に乗って犬と一緒にサバイバルをする本作、実質『マッドマックス』のパロディ感がある。
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