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全身小説家のeulogist2001のレビュー・感想・評価

全身小説家(1994年製作の映画)
3.6
文学者がまだひとつの権威でもあり、尊敬もされていた昭和。小説そのものと作家の生き様が少なからずオーバーラップして論じられる風潮もあった。無頼という言葉も時には実態が伴っていた。というかそうした共同幻想が生きていた時代であったのだ。

この作品はそのような背景や前提無しに観ても、明らかに時間の無駄となるか、あるいは当時の時代状況の1つのサンプルにしかならないだろう。

母からウソつきみっちゃんと呼ばれていた井上光晴は晴れて作家となったが自分の年表もゴマかしてしまうようなウソつきは生涯変わらなかった。

結果的に66歳でガンで死去するまでの数年を追うドキュメンタリーとなったが、そこに映されているのは視線を変えれば、彼の周りの人々も共に同時代にいろいろな思いを抱きながら存在していたという当たり前の事実である。

娘の荒野が後に記すことになる作家でもあった実母と井上の不倫相手の瀬戸内寂聴の姿もそこにある。
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