シャチ状球体

ヒトラーのための虐殺会議のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

ヒトラーのための虐殺会議(2022年製作の映画)
4.4
この映画が最も秀逸な点は、舞台となる邸宅が特に厳かな雰囲気に包まれていないところにある。
豪華な別荘でナチスの高官が集まり、談笑をする。世間話をしたり、政略を仕掛けたり。そんな会議の中で淡々と虐殺計画が進んでいくことが恐ろしい。

基本的に差別やジェノサイドには大義名分が必要なので、ユダヤ人が戦争の原因であるから戦争を止めるために処分しなければならない、という現代のロシアなんかも行っているプロパガンダが当然のように内面化されていることには全人類が自分事として考える必要があると思う。
ナチスは鬼でも悪魔でもなく、民主主義から生まれたナショナリズムと優勢思想を内包した一つの組織だ。人権が守られない国では普通の人間が仕事上人を殺す。間違った方向へと舵を切った組織は、多くの代替可能な構成員と共に自浄作用を発生させることなく黒くよどんでいく。

第二次世界大戦中のドイツでは、ユダヤ人だけでなく障害者や高齢者も虐殺された。これの基盤となった優生思想は特段に極悪であるナチスだけが持っていたものではなく、ジェノサイドのレベルには至らないまでも殆ど全ての人間が持ち得るということを忘れてはいけない。

映画的にはかなり状況説明が少ないので、それが良いか悪いかは別にして"最終的解決"がどのような内容なのかについてのテロップ等を増やしたり、ナチスの高官たちが処刑を見物するシーンがあればより会議と実際に行われている虐殺との差が明確になったかもしれない。
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