ゆう

正欲のゆうのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.2
観終わった後、なんとも言えない感情になってボーッと考えた。フィクションだけど、どこかノンフィクションのようなリアルさを感じる。

“普通“とは少し違った人達の話。100人居たら100人全く違うはずなのにその違いが周りとは違うだけでこの世界はとても生きづらい。夏月の家で流れていたLGBTQパレードのニュース。解説者たちは「良いですね」など認めている発言をしているが、そこで止まってしまっているのが今の世の中。そのようなニュースが一切流れずに当たり前になって初めて認めたのではないか。普通の人生を勧める寺井啓喜と自分がしたいことを勧める寺井由美夫妻、誰にも理解されない性欲を共に分かち合ってこの世界で生きていくために手を組んだ桐生夏月と佐々木佳道。価値観のズレが起きてギクシャクした関係になった寺井夫妻だが、分かり合える人が側にいるだけで日常が少しだけ楽になることを証明した夏月と佳道。水を感じるシーンでも序盤に夏月が部屋で1人感じているのよりも、公園で感じていた方が幸せそうだし満たされているように見えた。

夏月が1人→2人になるにつれて服の色や表情が段々と変わっていくのが流石。啓喜の普通が壊れた後や取り調べ中の声や表情がとても怖い。男性に対して恐怖心を抱いているが大也にだけは感じない神戸八重子役の東野絢香さんも凄く良くてもっと見ていたかった。ガッキーの死んだ目や生きる気力を無くした表情の演技が上手すぎてもっと見ていたい。

「生きていくために必死だった道のりを、あり得ないって簡単に片付けられたことありますか?」と言うセリフと「地球と言う星に留学してるみたい」の2セリフが最近の邦画の中で1番響いた。文化祭の会議の際に分かったように多様性多様性!と言う理解の薄っぺらさ。どれだけ理解されずに普通ではなくても、自分のすぐ側に理解してくれて分かってくれて支えられる人が1人でもいれば、この世界で生きていけるのかもしれない。1つ1つの言葉の重みが自分の中で普通について考えるきっかけになる良作でした。

ラストが少し残念だった、見てるこっちに突然全部投げてきた感じがする。でもあの終わり方は確実に映画館を出た後考えるきっかけを与えた。ちょっとだけロストケアっぽさを感じる。
ゆう

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