にゃーめん

正欲のにゃーめんのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.0
「食欲、性欲、睡眠欲」は、人間の3大欲求で、生きていく上で重要な3つの欲求の総称。

これらは人間なら当たり前に感じる欲求で、誰もこれらの欲求を求める事を否定しないし、あって当然の欲求=正欲である。

特に「食欲」と「睡眠欲」が無くなる場合は生命維持に直結するため、病気ではないかと周りから心配されたり、労ってもらえたりするものだが、

こと「性欲」に関しては、性的指向が一般的でなかったり、性欲そのものが無い場合、周りからの心配どころか、異常者扱いされ忌避される、という所に着眼点をおいたテーマに面白さを感じた。

性的嗜好が一般的でないマイノリティが、孤独を抱え、孤立していくというテーマは、昨今の映画作品では珍しく無くなってきたが、それを「小児性愛者」も同列であるという、投げかけをしてきた点には唸ってしまった…。

実際の生身の児童を自分の性欲の捌け口にすることはもちろん犯罪だが、その「性的指向」ごと否定し、異常者扱いすることこそが、その人を孤立させ、他者を傷つけてまで欲望をエスカレートさせてしまうきっかけになるのではないか、という問いかけをされているように感じた。

「小児性愛者」のそれと、ほぼ人畜無害な「水フェチ」の2者のマイノリティの生きづらさをどちらも「理解できない」、「あり得ない」と否定する検事の寺井(稲垣吾郎)があの後どう考え方を改め、価値観のアップデートをしていけるのか。
それとも、アップデート出来ないまま、自分の価値観で頑なに生きていくのか。

あのブツ切りのラストシーンで、マイノリティな指向を持たない、マジョリティ側である観客に考えを委ねられたように思う。

久々に、自分の価値観や見方を揺さぶられる邦画に出会えた。

キャスティングがこれまた絶妙で、夏月を演じるガッキー(新垣結衣)からは、まったく女性性を感じさせず、「実家暮らし・地方都市のイオンの寝具売り場勤めで、特にこれといった趣味もなく、回転寿司屋で美味しくなさそうに死んだ魚の目で、寿司を食べる独身女性」という、その辺の地方都市にいそうなリアルな役柄がどハマりしていた。

都市部に来てからは、まさしく水得た魚のように、水色の服を身につけ、好きなものを食べ、生き生きしだすという変化の描写には、自分を重ね共感してしまった。
(地方特有の、結婚して子供を産み育てることが当たり前の風潮に心の底からうんざりして、つい「うるせえ」と言いたくなる気持ちが痛いほど分かる…)

誰にもカミングアウトできず1人で抱えていた指向が、SNSや動画配信を通じて気軽に発信できる時代となり、自分だけではなく、1人じゃないと気付けたことで、救われた人も多いと思う。

「あなただけではない」「1人じゃない」このたった一つの言葉をかけてくれる人の存在が、どれだけ「明日を生きたい」と思えることか。

何かしらのマイノリティを持ち、マジョリティに紛れ、秘密がバレないように必死で擬態し、1人で苦しんでいる人たちを一人一人抱きしめるような作品であった。

この作品を映像化してくれた方々に感謝。
にゃーめん

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