いちごあんこ

正欲のいちごあんこのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

人生で最も心に刺さった映画。
普通って何?を大きく問う物語。

まず冒頭の
”世の中の情報は明日生きたい人前提のものしかない、
明日生きたくない人のためのものなんてない”
というセリフに心臓を射抜かれた。

“多様性を尊重しよう”という言葉が乱用されている中で、人々が考える”多様性”のひとつにすら入らない人の誰からも理解されない生きづらさを描いたストーリー。
人々は多様性の尊重を謳いながら無意識のうちに人を排除している。
本当の意味の多様性とは、意識の外側にある。
そして多様な人たちが集まった世の中の基準となる最たるものが法律であるということが、登場人物の1人の検事という仕事で表現されている。

普通の人間が正しい性欲とするセックスを桐生と佐々木が試すシーンに心打たれた。
2人は行為自体の良さは理解できなかったけれど、初めてお互いの全身が触れて体温を感じ合った瞬間、桐生が「ここにいていいんだ。1人だったときの自分にはもう戻れない。お願いだから、いなくならないで。」と涙を一筋流しながら、佐々木の背中に回していた手で小さくキュッと抱き寄せるシーンが良かった。
初めて人間の温もりを感じたのだろう。
これまで孤独に生きてきて、ようやく1人じゃないって思えたのだろう。

最後、佐々木は同じ性的嗜好の人と集まってそれを満たす行動をしたことがきっかけで逮捕されてしまう。
聴取を受ける妻の桐生は佐々木の指向を明かすことはなく、彼は誰かを傷つけたかと問う。
桐生と佐々木の性的指向を「普通はありえない」で片付けた検事に対して、桐生にとっての普通を突きつけたブーメラン返しが最高に良かった。
検事は離婚調停中で佐々木は拘置所(?)という似たような状況に置かれている中、
“正しい性欲”を持った人でも分かり合えていない夫婦と
“正しくない性欲”とされた夫婦が分かり合う対比が見事だった。


「地球に留学している感覚」
「朝起きたら自分以外の人間になっていますようにって願っている」
「普通の人に擬態して生きている。
この世界で生きていくにはそうするしかない」
共感するセリフのオンパレードだった。

でも、周りの人にこの映画を紹介できないことがもどかしい。。
好きな映画を聞かれた時、「正欲」だと答えてこの作品に共感したことを話したいが…
きっと代わりに別の作品を答えるんだろうな。
まさにそれが普通の人のフリをして生きているということ。
桐生と佐々木のように、分かり合える仲間がほしい。