アキラナウェイ

正欲のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.4
原作は朝井リョウによる長編小説。

この世界で
どうにもこうにも
息がし辛くて
生き難い人達の物語。

検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)。ショッピングモールの販売員である桐生夏月(新垣結衣)。彼女の中学時代の同級生、佐々木佳道(磯村勇斗)。大学のダンスサークルに所属する諸橋大也と彼に惹かれる神戸八重子。

5人のキャラクター達の群像劇。
家庭環境や世代も異なる彼らが、少しずつ物語の中で交錯していく。

不登校になってしまった我が子の教育方針を巡り、妻との衝突が絶えない寺井。「普通って何?」という件について。何が正しく何が誤りかを瞬時に判断する検事という職業柄なのかも知れないが、「いやもうちょっと相手の立場になってみなよ」と思ってしまう程、物事をバッサリ切り捨てるタイプの寺井にイライラする。

誰かを好きになったり付き合ったりする事が出来ず、孤立する夏月と佳道。新垣結衣のくたびれた顔はメイクだろうか?生気のない眼と痩せこけた頬にギョッとした。其処に居るのは僕らの知っているガッキーではない。

元の小説のワードチョイスだろうか。彼らのパートの台詞が俊逸だった。

「もう一度頑張ってみようと思った。
でも無理だった」

「人間とは付き合えない」

「命の形が違っとるんよ」

「地球に留学しとるみたい」

周囲と上手く折り合いが取れず、自ら命を断つ迄に追い詰められていた彼らはやがて生きていく為に、偽装結婚という道を選ぶ。

近くにいるだけで呼吸もままならぬ程の男性恐怖症なのに、大也という男性に惹かれる矛盾に葛藤する八重子。劇中、彼女の感情が暴走し爆発するシーンが印象的。しかし、そんな彼女の想いを受け止められない大也の事情は…。

大也の隠れた性癖が、一見無関係だった佳道や夏月と繋がっていく。ここで所謂◯◯フェチみたいな話に展開していくのだが、個人的にはここで興味が途絶えてしまった。だって◯◯に性的興奮まで持ってしまうとなると、個人的にはやっぱり理解不能だから。

何が好きで何を愛でようとそれは一向に構わないし、彼らが好きな◯◯も(ネタバレになるので明言は避ける)、そりゃ好きで結構、問題はない。…んだけど、これが例えば違法ドラッグや小児性愛であったとすれば倫理的には罪な訳だし、何が好きでもOK!と多様性の範疇を無限に広げるには無理がある。「シェイプ・オブ・ウォーター」で、半魚人に恋する女性の心境についていけなかった自分を思い出した。許されるのってあくまで人間が対象で、性別・人種は問題ない、あたりが限度じゃない?初音ミクと結婚する人とか、ね。ま、本人が良くて周りに迷惑が掛からなければ良いとも言えるけど、嫌悪感を抱く人がいるのも判る。

生き辛い者同士が肩を寄せ合う物語としては興味深いものの、大風呂敷を広げ過ぎてしまって纏まり切っていない印象を受けた。

結局、新垣結衣と磯村勇斗のビジュアルが説得力を欠いている気がする。前述のように本作の新垣結衣の容姿は明らかに精彩を欠いているのが、それでも素(もと)となるのは新垣結衣のビジュアルなのだ。そんな彼女がそこそこイケメンの磯村勇斗と暮らす事になるのだから、世の中に沢山いる生き辛い人達に比べるとラッキーな方なんだと思う。世の中の日陰者達はもっとビジュアルも清潔感も悲惨なんだと思うけど?

なーんて、モヤモヤを際限なく考えさせられてしまっている時点で、本作の狙いにまんまとハマってしまっているのかも。

そういう意味でこの世の常識や我々が持つ普通という感覚に一石を投じる問題作としては一定の評価はするが、個人的には好きじゃなかった。これに尽きる。でも許して欲しい。それも多様性の一つだもの。