クロ

正欲のクロのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.9
期待以上に面白かったし、深い余韻が残った。
俳優陣の演技もとても良かった。

普段洋画ばかり見ているので、端々に表現される日本人臭さが新鮮というか、生々しい。

そしてその日本的な(同時に普遍的でもある)「普通」に馴染めず、孤独を深める登場人物たち。
「普通」に馴染めない人を理解することが出来ない寺井。

夏月や佳道たちの孤独感に強く共感しつつも、それほどまでの水への特別な感情は、正直私にも理解は出来ない。なので同時に寺井の困惑にも共感出来る。小児性愛者の加害行為への怒りも共感する。
内面の欲求が犯罪にあたるのか、境目を超えているのかは他人には分かりづらいから、みんな「普通」を求め、表面的な「普通」に安心したりする。

子供の不登校もそうだ。とりあえず「普通」なら安心出来る。最近は受け皿も色々増えてきたが、学校に行けない不安や焦りや自己嫌悪は子供も親も辛い。
でも経験しないと、寄り添わないと、分からない。


「普通」に馴染めない孤独感と、「私1人じゃなかったんだ」という安心感。これ高校生の頃に『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ時と同じ気持ち。
もっと若い時にこの映画を見ていたら、自分にとってかなり重要な作品になったかも。原作も読みたい。


そして映画の終わり方が良かった。邦画は終わりぎわに説明的な余計な場面を入れて台無しにすることが多くてヒヤヒヤする。過不足なく描き切り、スッと終わらせたラストが素晴らしかった。
クロ

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