もりひさ

正欲のもりひさのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.8
正しい欲は人それぞれ。あってはならない感情なんてない。
というのであれば、1人でその欲を満たすことができればそれでお終い。めでたしめでたし。

厄介なのは、誰かとの繋がりの中でしか満たすことのできない欲が存在するということ、欲望の中には道徳的法的にあってはならないとされているものも存在するということ、矛盾しているのになぜか欲望として存在しているということ。

欲望そのものは、生きる上で必要。
寝たい、食べたい、恋をしたい。
欲望全部が消えてしまったら、それは廃人と一緒。
けれども、寝たい食べたいを叶えることすらおぼつかない。生き延びるだけで手一杯。もう恋なんてしないなんて、普通に言えちゃう。
欲望なんて無くなれば良いのに。今日も今日とて煩悩に突き動かされているくせになぜか思ってしまう。

閑話休題。

こちらは聞いてもいないのに己のことをわざわざ言ってくる人たちがいる(桐生夏生と別部署の同僚との、印象に残ったシーン)。
その人たちの心理は(あくまでこの映画では)どんなものかというと↓

「いつも1人ぼっちだから話しかけやっている」のにその態度は何だ。
うるさい、話しかけないでとこちらが言えば、いまなんつった?(未婚でしかも30代で世間的には負け組の)お前は(結婚して妊娠もしている世間的には勝ち組の)私をただ妬んでるだけだと逆ギレ。
「あんたがどんな人か知らないけど」「可哀想だから」気を遣って話しかけてる、逆に気を遣わせるのもハラスメントじゃないかと凄んでその場を立ち去る。

こっちは善意で話しかけてやってるのに、お前のその態度は間違っているだろといった具合。

大多数=世間=正義だという、ある意味思考停止なその言動はいただけない。あんたがどんな人か知らないけど、と言っている時点で他者を慮る気持ちがない。
上記のように、様々な欲望を抱えて悩んでいる人たちがいるというのに。
と個人的には思うけど、気を遣わせるお前もハラスメントじゃないかと言われるともう黙るしかない。相手を不快にしたという事実があるのだから。
こうなってくるともういたちごっこになって考えるのも嫌になってくる。そこで思い出したのが

悪意というのは罪悪感があるから歯止めが効くけど、正義というのは罪悪感がないから歯止めが効かなくなる(立川志らく)

という発言。
普段はあまり意識することのない自分や相手の何気ない欲望(からあらわれてしまう言動)にも、それがたとえ目を逸らしたくなるものであっても一度立ち止まって考えたい。そう思わせる作品でした。

ガッキーにあんな怖い目で睨まれたくないし。というのはつまんない冗談で、いやはやほんとすごい演技でした。
もりひさ

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