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西部戦線異状なしのRenのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.0
原作未読、1930年版未見。戦場の惨劇をただ映すことで反戦を説いた、ストイックな戦争映画の秀作だと思う。見たくないものをしっかり見せる。聞きたくない音をしっかり聞かせる。

英雄譚でなく、反対に悲劇でもない虚無をくり抜いた147分。「戦争は金ばかりかかって、空しいものだなあ」とは『ドラえもん』スネ吉兄さんによる至言だが、今作も戦争の何も生まなさを観客の眼前に突きつける。

戦場で英雄になること、戦線で攻撃することに高揚していた若者たちがただモノとして扱われモノのように倒れていく。ここでは人間は、流れ作業的に運ばれて導入される工業製品のように使われることをオープニングのシークエンスから如実に示してくる。
弾丸が体を貫通し、爆風に吹き飛ばされ、刺されれば失血し、殴られれば顔を潰される当然の物理法則の下で何も劇的な事は起こらず死んでいく真理があった。塹壕の中でパンに無我夢中でかぶりつき雨水をがぶ飲みする描写も良い。ただ戦場で死んでいく、戦線に繰り出すだけのための食欲。

中盤、塹壕に戦車が接近してからの阿鼻叫喚の地獄絵図が今作の白眉。胸を滅多刺しにされたのに死にきれない人間の場面では、グロとかではなくただ苦しくてえずいた。
上述のシーンなどで、ふとした瞬間に兵士が我に返り自分が人間であることを思い出すのが地獄性を一層際立たせる。元より今作は「人間が戦争に兵器として放り込まれて兵器になってしまう」恐怖のようなものを描いているので、兵器化したと思っていたのにまだ人間だったことを見せられると言語化できない居た堪れなさに襲われるのだ。

首脳陣による談合の場面は今回の再映画化に際して追加されたシーンらしく、1930年版ファンからは賛否があるらしいことを知った。確かに若干間延びしているし、戦争を太刀打ちできない甚大な何かとして描くなら無くてもいい場面ではありそうだけど、自分はあって良かった派。そんな戦争も裏では人間が操ったり統制したりしていて、人間が生んだ軋轢に人間を巻き込んで人間を殺して人間が止める、という地獄の永久機関のような構造を示すことでより戦争の「何も生まなさ」が強調されていたように思えたので。

若干の難点として、英雄譚ではないと言ったものの主人公が主人公然としてしまっている点があった。物語なので当然なのかもしれないが、ご都合主義的に助かったり(家畜を盗もうとした彼ではなく、林の中にいる彼の仲間の方が狙われたのはどうして?)、予想以上に戦場で動けたりするのは「主人公」じゃん、と思ってしまう。完全なる巻き込まれキャラクターではあるし平等に悲劇に見舞われるけど、彼をもっと大多数の中の一人として描いていたほうが良かったのでは。
劇伴もあまり好みではなかった。音量設定か編曲のどちらかでミスっていた気がする。緊迫感を煽るというより集中できないノイズに感じた。

セットや撮影、音響、人物の汚し方など見せ方は総じて素晴らしかったので、最後まで飽きることはなかった。総評として、近年でもおすすめの戦争映画。
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