Nana

西部戦線異状なしのNanaのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.5
戦死した兵士の衣服が脱がされ、洗濯・縫製し直されるシーンから始まる。
直された衣類は、英雄になれと鼓舞された若者たちに支給される。戦死した兵士の物とは知らず自分の戦闘服に目を輝かせる若者たち。
国家に利用されてしまう若者たちの純粋さに胸が苦しくなる。

「努力は必ず報われる」この台詞がこんなにも虚しく漂ってしまう場所があるだろうか。そもそも何を持って報われるというんだろう?考えれば考えるほど戦争の空虚さだけが残る。

休戦協定まであと15分。ここに来てまで、軍人としてのプライドのみで前進を命じる将軍。ある一つの部隊での出来事かもしれないけど戦争って結局はこれに集約される。国の威信をかけて兵士を駒のように扱う上層部。繰り返し出てくる、泥と血で塗れた戦場と優雅な食事の対比。幹部と兵士とで見えている現実の乖離がよく伝わってくる。

銃を放った少年も家族と家畜を守っただけ。戦闘に参加していない人の心にも憎しみを植えつけてしまう。あらゆる人の心を蝕む戦争の非情さが恐ろしい。

戦車が迫り来る音と振動、銃弾が身体を掠めていく恐怖、浸水した塹壕の寒さ。リアルさを突き詰めたセットと音響で、自分もその場にいるかのような臨場感がこの作品への没入感を高めていた。
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