滝井椎野

フェイブルマンズの滝井椎野のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.2
スピルバーグの自伝的作品ということで、本作は彼が映画人としてのスタートラインに立つまでを描いた作品。
『ET』を彷彿とさせる自転車シーン等、所々にある名作へのオマージュは観ていてニヤリとさせられる。

幼少期、初めてカメラを回すサミーの姿に、後に『激突』を撮ることになるスピルバーグの姿を見た。結局のところ、良い映画の根本には造り手の『好き』が詰まっているものなのだと嬉しくなった。
結構辛いところも多い本作、西部劇や戦争映画、家族の姿等、サミーがカメラを回すシーンは何だかんだで純粋な『好き』が溢れている。その結果として、母の心に秘めた思いを暴くことになろうが、いじめっ子の怒りを買うことになろうが、それでもカメラを置くことが出来ないのは、彼が真に映画に魅せられた人間だからだろう。だからこそ彼の撮った作品は人々を魅了し、喜びだろうが怒りだろうが観る人の感情を引き出す。それを描く本作は大変興味深く感じた。

正直なところをいうと、スピルバーグの自伝的作品ということで、もっと映画業界のあんなことやこんなことが観れると思っていたのだが、蓋を開けてみればサミーの生い立ちや家族の物語ばかり。少し拍子抜けしていたところで本作ラストである。映画好きとしては神のような存在であるジョン・フォード監督が出てきてからのワクワク感はまさに物語の始まりに相応しい。
なるほど、これはあくまで始まりの物語なのだと納得。その後を観るには大人しくスピルバーグ作品を観よ! ということなのだろう。
エンドロールで流れるジョン・ウィリアムズの曲を耳に、なんとなく浮き足立った気持ちで劇場を後にすることができた。
まさに映画が見たくなる映画。
滝井椎野

滝井椎野