きゅうげん

フェイブルマンズのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的作品。
池塘春草の夢よろしく幼少〜青春期を懐古し、自らの創作の原点へ立ち返る映画賛歌……だと思いきや、過去作品への作家論的見方を一変させ、また映像制作のもつ恐ろしさを警告する衝撃作でした。
冒頭の「夢って怖いんだよ」という素朴なセリフに全てがつまってますね。

しばしばスピルバーグ作品に対して論じられる「優しい女性性・不器用な男性性」については、「芸術家肌のママ・仕事人間のパパ」と二元的にカテゴライズされることがあり、とりわけ男性主人公については『未知との遭遇』や『ジュラシック・パーク』など、家庭的な振る舞いのできない父親像が描かれていると言われてきました。
しかし本作を踏まえると父母像は反転可能な、というより相互的に複雑なキャラクターに見えるようになります。アブダクトされたロイにもグラント博士にもミッツィ・フェイブルマンズのような性格的側面があることは否めません。
(……それはつまるところ、そんな両親の子供であるスピルバーグ本人そのものとも言えます。)
芸術家肌のママと同じような才能的傾向があると言われるサミーですが、実際のところスピルバーグはSF雑誌を偏愛していたり、映画撮影でもメカ的なアイデアやテクニックに凝ったりと、趣味的傾向はパパ譲りなところが多分にあったわけです。
「パパ秘蔵のパルプ雑誌を貪るように読んでた」という幼少期エピソードを盛り込んでくれてたら、もっと分かりやすかったかも?

またそんなドラマと不可分なのが、この映画のもうひとつのテーマ「映画を作るということ」です。
母親とベニーとの仲を撮影できてしまうこと、あるいはローガンの活躍やチャドの失態を編集できてしまうこと、そんなイメージを作り伝えることの責任の重大さを再認識させられました。
「これまでの色々なコトやモノがあって俺は俺なのに、画面に映ってるやつは安っぽく見える」という旨のローガンのセリフにはハッとさせられます。まぁあそこは、明確に茶化してしまったチャドにこそ向き合うべきだったと思いますけども。
また離婚を告げる家族会議も重要です。
泣き喚く妹を客観的にしか見られない自分に、まさしくカメラを回す幻を重ねるシーン。これは映画を作る者の、良くも悪くもクールである職業病的側面をうかがわせるものでした。
そして衝撃のラスト!
デイビッド・リンチ演じるジョン・フォードの「地平線は下にあっても上にあってもいい、ただ真ん中にある画はつまらん!」という教えをすぐ実践する反則的なオチたるや。
あんなの、この映画以外じゃできないっすね。

そんなフェイブルマン家、ミシェル・ウィリアムズやポール・ダノはもちろん、幼少期も青年期も子役たちが上手すぎる。長女&次女もそうですが何よりも幼サミー、『地上最大のショウ』観劇後のポケ〜っと感が素晴らしすぎます。
そしてそんな一家に嵐のようにやって来て去ってゆく大伯父ボリス。御年87歳のジャド・ハーシュの圧倒的な怪演がひかります。
そういえばジョン・ウィリアムズも91歳、スピルバーグとのコラボレーションは本作が最後だとか。落ち着いたピアノ・ソナタに儚く切ない印象を受けます。スピルバーグも80歳が見えてきましたが、しかし今後もプロデュース業がわんさか。老いてはまさにますます盛んなるべし。
しかもIMDbのプリプロ欄に『アンタイトルド・フランク・ブリット・プロジェクト』とあるんですが……。
監督スティーブン・スピルバーグ
主演ブラッドリー・クーパー
このタッグで『ブリット』!?!?!?