Jun潤

オレンジ・ランプのJun潤のレビュー・感想・評価

オレンジ・ランプ(2023年製作の映画)
3.8
2023.07.13

予告を見て気になった作品。
貫地谷しほりの主演作を観るのもだいぶ久しぶりな気がしますね。
若年性アルツハイマー型認知症によって若くして色んなことを忘れていく夫と、彼を支える妻の姿を、実話を基にして描く。

只野真央はどこにでもいる普通の専業主婦。
2人の娘と、成績トップの営業マンの夫・晃一と共に幸せに暮らしていた、静かに忍び寄る病気の存在に気付くことなくー。
晃一が「若年性アルツハイマー型認知症」だと診断された日から、2人は怯えるように生活を送っていく。
認知症の症状に苦しみ、何かあった時のための準備に悩み、他の人に迷惑をかけないよう病気であることをひた隠しにして。
しかし周囲のサポートを受け、認知症患者の様々な生き方を知り、2人は病気との向き合い方、家族のあり方を変えていく。

認知症であることは、大変そうか、苦労していそうか、可哀想か。
それは他人から見たイメージであり、本人たちの幸せや、見えないところにある本当の苦労を知らないだけなのかもしれない。
認知症であっても人生は終わらないし、社会との繋がりが断絶されるわけでもない。
そんなメッセージをストレートに伝えに来てくれるハートフルヒューマンドラマ。

妻の知らない夫の辛さ、夫の知らない妻の悩み。
目の前の辛い現実から逃げたり、何かあった時のためにと、認知症患者は何もできないかのような手厚すぎるサポートが逆に夫を傷付けていたりと、病気の当事者とそれを支える妻の切なすぎるすれ違いが描かれていました。

理解と感謝と思いやりは、病気の人や障害がある人、介護が必要な人に対してだけでなく、社会の中で生きる全ての人が常に持っているべき大切なことなのに、実際そうはいかないですね。
作中ではこれらを持ち合わせている人たちばかりでしたが、持っていない人もいてしまうこと、実際に自分がそのような人と関わる時は何ができるのか、考えなければなと思います。

病気の怖いところはその症状だけでなく、世間一般に知られていればいるほど、そこについて回るイメージにもあるのだと思いました。
コロナ禍でもそんなことがあったと思いますが、病気でない自分が病気である人に対してどのような目線になるのか、何ができて何をしてはいけないのか。
自分が病気になった時に周囲の助けを得るためにも、きちんと向き合わなければなりませんね。

人間は忘れる生き物だけど、自分が忘れても周りの人が覚えていてくれる。
ちょいと仮面ライダーを思い出しますが、記憶や存在については、人間だからこそ、他人があってこそのものなんだと改めて感じました。

今作自体はハッピーエンドで、病気になっても周りの人の深い思いやりによって生きていけることが描かれていましたが、どうしても京都伏見介護殺人事件のような、世間から見捨てられ、悲劇へ向かってしまう人たちがいることも、努努忘れてはならないのだと思います。
Jun潤

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