shiro

aftersun/アフターサンのshiroのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

aftersun

※自分用です。長いです。

心の輪郭は人と接することで初めて生まれる。
どっかで聞いた言葉。
「輪郭が生まれる」っていうのは多分、「物心が着く」に近いと思う。

カラムは、物心が着く前、つまり自分の性自認を済ませる前に結婚、出産を経験し、加えて、男性として生きることにもかなり苦労してきたように感じた。

(カラムが同性愛者だというのは、活弁シネマ倶楽部というチャンネルでのシャーロット監督へのインタビューで排除したと言っています。要は最初それも考えたが、削ったわけです。

それでも自分のレビューでは自分の素直な受け取り方を文字にしたいのでこの注釈を挟みます。

喧嘩をして部屋に戻れないソフィがみた男同士のキスのシーンや、その次の日泥を塗り会うシーンにある肩の傷、そして、パンフレットの「間もなく31歳を迎える男性として生きづらさを抱え...」と言う書き方。なにより、別れた奥さんに「愛してるよ」と言えること。奥さんにカミングアウトして、理解してもらえて、円満に別れた姿が想像つく。
監督自身、当初そのような考えもあって、しかし鬱の部分に焦点を当てるために削ったとのことなので、その残り香を私は感じ取っていたようです。)

だからこそ彼の教育は護身術であったり、「なりたい自分になりなさい」「男やドラッグ、これから色々経験すると思うけど、その時は言いなさい」「なんでビキニなんだ」「ティーンではなくあそこの小さな子と遊びなさい」という言葉の数々になる。

そこには愛情とともに、自分と同じ道(性の自認が済んでないうちに引き返せない恋愛をする道)を歩んでほしくないというエゴも見える。

自分の娘が自由な恋愛をして欲しいと願うと共に、周りに流されることを恐れている。

周りの少し年上の子達がキスをしたり、セックスの話をしていたりする時、子供ながらも何となくそういう興味が湧き、真似したくなるのは自分も古い記憶の片隅にある。思春期のそれ。

それを恋愛感情というにはあまりに抽象的で、恋愛がなにか、好きがなにか、愛がなにかを理解してない幼い興味に過ぎない。(プールサイドでのキスもそう)

でもみんなそうやって流されたり漂ったりしながら、人を好きになり、喧嘩をしたり、離れたり、また近づいたりしながら、自分の輪郭(物心、性自認)を作っていく。

沢山失敗して気づけばいい。
キスをして、そこに愛を感じるのか、それとも違和感を感じるのか。そんなふうにして正解や不正解を知っていく。

実際ソフィはその父のおかげと言うべきか、自分の性自認のまま、自分のありのままの姿で生きている。

しかし、そういう意味での「正しい道」へ歩めなかった絶望が、その心のささくれが、作中節々で垣間見える。バスに構わず道を横断したり、ベランダのフェンスの上に立ったり、海の中に消えていったり。

ソフィが言っていた、「楽しい一日を過ごして、家に帰ってきた時のあの、動けない感じ」
これを、カラムは常に抱えているように思う。
精神的に、11歳の頃の将来の夢なんて、語れるはずもない状況。鬱。そしてカラムは自らの弱さを娘に見せていない。

そこから生まれる「疲れ」は、旅の中で求められる父性も相まって彼から余裕を奪い、稚拙な振る舞いとして顕著に現れる。

喧嘩をした次の日、11年前は誰も覚えていなかった誕生日。

人生に失望して、自殺も考え、今までの人生を「失敗」として片付けようとしていたカラムを、ソフィが真正面からの愛で肯定する。

(ここからは憶測ばかりです。)
結婚し、子供が生まれ、父性を求められそこに違和感を覚えたりして、取り返しのつかないところまで来て初めて自分が純粋に「男性」ではないと気づいた。
絶望の中、ソフィが生まれたことを後悔したこともあったとおもう。そんなことを考えた自分を責めた夜も何度もあったと思う。

それでもソフィが、自分の至らない部分を察してくれたり、仲直りの印に体に泥を塗りあったり、誕生日を何とか盛大に祝おうとしてくれたり、その姿にどうしようもなく胸を打たれて泣いてしまう。

少なくともソフィだけは、今の自分を本当に愛してくれている。

大人になったソフィがあのビデオを見返す頃、きっとカラムは居ない。ソフィはあのキラキラした夏のなかに、父が居なくなってしまった理由を、カラムと同じ歳になってビデオの中に見つける。

繰り返し見ることで、父親というベールの隙間に彼の父親としての一面ではなく、一人の人間としての繊細な一面があること気づいていく。

そして、彼のことを理解したとき響くのは、Queen/David BowieのUnder Pressure。
愛、愛、愛。
2人は抱き合い、時を超えて、同じ立場になってやっと本当の意味で理解し合って、抱き合うことが出来た。

この映画は全編通してほとんどを言葉で語らず、言い表せない絶妙なニュアンスを見事に映像化している。それなのに時にまっすぐに、曲で叫ぶ。嗚呼、散々書いてもまだ書きたいことが出てくる。こんな贅沢なことは無い。

映画冥利。マイベスト。しかも僕の誕生日に公開されてる。

この解釈はほとんど間違っていると思います。
あくまで私の解釈です。
監督自身、余白を多く残し、そこに正解や不正解を求めない方です。受け手に任せるとの事ですので、お言葉に甘えさせて頂きました。

ありがとうございました。
shiro

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