Hiro

aftersun/アフターサンのHiroのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.4
「After sun」
どれだけの時間を共に過ごしても、心のうちまでは分からない。幼かったあの頃、あなたが何を考えていたかなんて、想像することしかできない。

打ちのめされてしまった。もっと瑞々しい、夏の思い出を掻き集めたような映画かと思っていたのに。作品全体に漂う不気味さと、仄暗さ、それと性の匂い。それらとは対照的な真夏の空と海の輝き。誰もが「あの頃」に引き摺り戻されてしまう。

映像も音楽も素晴らしかったけれど、何より主演2人の様が本当の親子にしか見えなくて、物語であることを忘れ、ただ2人のホームビデオを見ている気持ちになってしまった。あの2人の距離感、凄く好きです。

ソフィーが段々と大人になっていく様が見て取れるだけじゃなくて、彼女の周りを取り巻く「男女」の関係もわざとらしくなく、けれど確実に描かれていて良かった。特にプールのシーンなんか、凄く好きです。ソフィーが感じている艶かしさみたいなものも感じ取れた気がする。

この作品の凄いところって、他者の数だけ世界の切り取り方があるという、ある意味では物凄く普遍的なことを映画で描き切っている所だと思います。ソフィーにとって、あの夏の思い出はどこまでも楽しいものだったに違いないけど、父親にとってはそうじゃなかった。同じ空を見ていても、感じることは同じではないし、どれだけ近くに居て、同じ時間を共有していても感じることは違う。

ラストの破壊力は凄いです。計算され尽くされているというかなんというか…。彼がその後どんな道を選んだのかは知る由も無いけれど、ソフィーのように愛する娘が居たとしても、彼の空白は埋まらなかったんだなぁと。

誰と居ても、何をしても、絶対的に孤独な人は存在する。それを描いてくれたのが何より嬉しいというか、そういう人たちのことを救ってくれるのが映画であり、芸術なんだなと改めて感じました。
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