みずきち

葬送のカーネーションのみずきちのネタバレレビュー・内容・結末

葬送のカーネーション(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

"約束の地への旅"なんて謳われたら観ないわけにはいかない映画だった。(が、こちらはエルサレムではなくシリア難民の話である。)

「どこで埋めようと、地面は同じだろう」
これは故郷に妻を埋葬することにこだわる老難民にかけたトルコ憲兵の言葉である。日本でぼんやり暮らす私は「故郷への思いってそんなに強いものか、境界線はそんなに重要なものなのか」と、トルコ憲兵と同じような感覚である。
だが自分の意志でなく家を離れざるを得なくなり、住んでいた街も破壊されて、多くの死を目にして、何年も(何十年も)仮住まい生活だったら、しかも仮住まい先からは厄介扱いで土地的にも文化的にも馴染めなかったら。ますます自分のアイデンティティを、失ったホームに求めることになるだろう。この老人のように。
世界で起きている過酷な現実に、またひとつ近しくなれた映画体験だった。

最後に老難民ムサは銃声の鳴り響く中、危険を顧みずボーダーを超えて故郷に戻っていく。だが孫娘はフェンスを超えられない。すでにトルコ語も習得し始めた孫娘は、それでいいのである。故郷を渇望するムサは越境後、活き活きとしつつも生きているのか死んだのかわからないまさに「夢」のような状態に突入したのが印象的だった。羨望の地に足を踏み入れ、精神的に救済され、妻とは死して再会したのだろう。そして冒頭の婚姻祭礼と繋がる輪廻的展開には感動した。
(パンフレットの監督解説で、人生は夢である、生と死は連続したものである、というスーフィズム的視点を読んで納得した)

全体的には眠い。
が、ところどころ上記のようにハッとさせられる精神打撃があるのと、道中で遭遇するジモティーたちのアラブ人らしい人懐こさ&人間関係の湿っぽさが中東らしさを感じられて満足。
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