CHEBUNBUN

イタリア旅行のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

イタリア旅行(1953年製作の映画)
3.5
【半世紀以上前にもあったインスタ映え】
現在公開中のキーラ・ナイトレイ主演作『コレット』のシドニー=ガブリエル・コレットが書いた小説を基にネオリアリズモの巨匠ロベルト・ロッセリーニが妻イングリッド・バーグマンを主演に、即興的なロードムービーを撮った。それが『イタリア旅行』だ。

本作は、互いに伴侶がいたにも拘らず、『ストロンボリ/神の土地』で熱々不倫ライフを送り、そのまま結婚と至ったバーグマンとロッセリーニの未来を表したような残酷な作品である。

なんといっても、この作品はイタリア旅行という一見楽しそうな旅行全てを倦怠期の不穏な空気感で包んでいるのだ。何故、バーグマン演じるキャサリン・ジョイスとジョージ・サンダース演じるアレクサンダーが不仲になったのかはよく分からない。ただ、ナポリに向かう車内でのぎこちない会話、そしてホテルに着くや否や、二人だけの時間を拒絶するように間髪入れずキャサリンがBARに行こうとするあたりから観客はこの夫婦の末期的状況を悟る。そんな彼女たちに現れる夫婦は、熱々で彼女たちの過去の日々を鏡のように魅せてくる。陰と陽が接触しそうなぐらい近づく。ここに胸をチクンと刺されるような息苦しさを感じる。

この夫婦は、折角の旅もバラバラ行動だ。キャサリンが旅する博物館に火山に遺跡は、現代の観光地とはかけ離れたように閑古鳥だ。人の気配がしない広大な空間を、案内人が捲し立てるように案内するのだが、彼女の心には何も響いてこない。しかしながら、少しづつ、イタリアの絶景が彼女の好奇心を刺激してくる。

ここで面白いのは、火山で彼女が写真撮影しようとすること。この旅行は記憶から忘れたいぐらい孤独で凄惨な旅にも拘らず、彼女は写真に異世界である火山を捉えようとするのだ。構図を考えてどうしたら火山がカッコよく撮れるか考える様子は今でいう観光地でインスタ映えを狙ったショットを掴もうとするのに似ている。

当時はパソコンもなければ、当然ながらスマホもない。森羅万象の情報が簡単に入手できる。しかも、画像付きでなんて夢のまた夢サイエンスフィクションの世界だった。その時代に映画は海外を知るメディアとして機能していた。本作は今観ると、画が悪く映えているようには見えないショットが多いのだが、倦怠期夫婦の地獄を絶景という洪水が流れるように言えていき、傷が癒えていく様子は圧巻でした。

それにしても本作はハッピーエンドで終わっているが、バーグマンとロッセリーニの未来は《離婚》というバッドエンドとなっているのがなんとも皮肉である。
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