みほみほ

理想郷のみほみほのレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
3.9
🇪🇸🍅2025年2本目🥦🇫🇷(字幕)

浮かび上がってくる問題点が前半と後半で突如すり替わってしまうのはとても気掛かりでしたが、その土地に根付いた者達の譲れぬ思いと移り住んできた外国人夫婦の考えが永遠に交わらない(アントワーヌ夫婦の伝えたいことも響かない)のが虚しくもあり、現実を投影していて心苦しい。

どちら側の気持ちも分かるように描かれているから、アントワーヌの考え方や上から目線気味な態度も人によっては異物と捉えられてしまうのも分かるし、あとから移り住んで来た新参者の外国人にこの村の何が分かるんだという考えも理解できる。

あの土地に希望も何も持てないまま腐りきっている兄弟も映画によく出てくる田舎特有の嫌〜なパターンで、会うたびに何が起こるのか読めなくて薄気味悪く居心地悪かった。

どちらも引くに引けぬ状況になった時、そうなって欲しくないと思っていた展開に見事に進んでしまって…先日観て後悔している『胸騒ぎ』がチラついてずっと不安だったけど、終始不穏な空気が漂う中で、恐怖に負けず静かに愛を貫き、有耶無耶にして逃げる道を選択しなかった妻の信念には痺れた。(本作の方がよっぽど胸騒ぎだった)

自分なら早い段階であの土地から逃げたいし、あのまま生活を続けるなんて耐えられない。一応選択肢として行き場はあるわけで、それでも諦めなかったのはアントワーヌとの人生がそこにあったからだと思う。

前半に頭の中で考えていた事とは打って変わって、後半は夫婦間のことや親子関係等、別方向に話が拡がっていくのも予想を良い意味で裏切ってくれて想像してた作品と少し違ったので驚いた。

気持ちは晴れないけれど、形容し難いなにかを確かに感じた。

近年、遠い国で起きていると思ってた移民問題やら外国人の問題が日本でも溢れかえっていて、ついに自分達も考えるべき時がすぐ目の前に来ているのだなと痛感している。

遠い国の出来事だと思っていた頃は、分断を煽る過激な地元民にこうはなりたくないな…と感じ、外国人側の気持ちに寄り添うことが多かったけど、背後で起こる細かな問題を知ると迂闊にそうも思えなくなっている自分もいて、『理想郷』を観ながら今まさに日本でもこういうことは起きていて、どちらか片方を偏った目線で見ているのではないかということに気付かされた。

映画を観ていると同時に色々なことをポンポン考えさせられる作品は割と好きなので、不穏さを感じながらも他人事と思わずに自分の人生に生かしていかなければ!と思いながら観ていました。

私も田舎暮らしに憧れていた一人でしたが、そこでどんな暮らしが待っているかは分からない。ましてや他国に行くとなれば余計に…

恐ろしいけど様々なことを考えさせられ、妻の芯のある愛情に感銘を受けた作品でした。

ただ最初の言葉が何を指すのか…
冒頭の馬とアントワーヌと…スッキリしない部分もありました。きっと宗教的なことなのかな…
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