消々

マンティコア 怪物の消々のレビュー・感想・評価

マンティコア 怪物(2022年製作の映画)
3.0
映画がやっと終わった時、鞄ごと自分を抱きしめて固まっていたことに気づいた。それほどまでのストレス下で、でも人間の欲望を真正面に据えた良作だった。
ゲームデザイナーの主人公・フリアンは、自身の性嗜好と社会通念の板挟みの中でなんとか自制を保っている。
この映画の「怪物」は何かと考えた時に、彼に潜む許されない欲望を「怪物」として捉える見方は、ひとつあると思う。
だけどフリアン以外の人々、ディアナ(フリアンと親しくなる女性)や隣人・クリスチャンの母親も、化けた狐が尻尾をぴろっと出すように、会話の端々や態度に、願望というか欲望というか、がちらりと顔を出す。彼女らが内に抱えるものも、一歩二歩、もしくは表し方を間違えば「怪物」になり得るんじゃないか。そんな危うさを感じるし、さらに他人から見えないように隠している点では、フリアンと同じ。つまり、自身の極プライベートな所で隠している欲望こそが「怪物」ではないか……。
そう思い至って最後、「この映画を見ているあなたも、一歩間違えば…という怪物を抱えて生きているんじゃないか」と、監督から突きつけられたようで、怖いというか、自分を信用できないような薄ら寒さを覚えた。一晩たってもモヤモヤがつきまとう。
鑑賞中、無意識にストレスを散らしているのか、水を口に含む音があちこちから聞こえるくらいにはシビアだったけれど、けれど、見るかどうか選択肢に入る余地があるなら、間違いなく見たほうがいい。加えて、こんな衝撃作を世に問うた監督の勇気を、手放しで称賛したい。
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