羊の群れは丘を登る

テルアビブ・ベイルートの羊の群れは丘を登るのレビュー・感想・評価

テルアビブ・ベイルート(2022年製作の映画)
4.0
 1984年から2006年を通して、イスラエル・レバノン間の紛争を背景に、イスラエル兵の妻、イスラエルに協力したキリスト教レバノン人民兵の娘タニヤの2人から国境によって引き裂かれる家族を描いている。
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 映画内では、ヘブライ語、アラビア語、フランス語、英語が使われている。
 イスラエル兵の妻はフランス系ユダヤ人で、レバノンもフランスの植民地だったことともあり、フランス語での会話がある。

 キリスト教、イスラームと様々な宗教宗派が入り乱れるモザイク国家レバノン。

 1970年代、レバノンではパレスチナ解放運動の武装ゲリラPLOの活動拠点として流入し始め、国内キリスト教徒と対立が鮮明化し、内戦に入る。

 1982年、イスラエルはレバノンに侵攻し、南部を占領。首都ベイルートへ空爆を繰り返した。
 レバノン国内の反発も相まって、PLOはチュニジアの首都チュニスへ拠点を移した。
 90年代、シリア軍の侵攻やシーア派武装組織のヒズボラの台頭によって、イスラエル側の犠牲者が拡大する。
 そのため、2000年5月には占領地から撤退。

 占領地でイスラエルに協力してきたキリスト教徒は見捨てられ、命の危険があるため、イスラエルに避難しようとしたところ、なかなか受け入れてもらえない。
 やっと、イスラエルに入っても、差別や冷遇をされる。
 イスラエルに避難して来たタニヤと父親は裏切られたという相当なショックを受けたし、憤りを持つことになった。
 

 2006年7月、国境付近ザイルート村で、2人のイスラエル人兵士がヒズボラに誘拐される。
 これをきっかけに、再びレバノンへ侵攻、10月に撤退。
 2年後の2008年に、2人は棺に収まれた形で捕虜交換が行われる。

 イスラエル人家族の徴兵に行った息子が人質にされ、棺で還されるシーンはこれがもとになっている。
 
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 背景知識がないと、初見ではきついかもしれない。
でも、これだけ複雑なイスラエルとレバノンの史実関係をドラマとして、116分にまとめるのはすごいことだ思うし、自分は結構、初見でも見やすかった。
 
 史実を調べて、この映画のシーンはこういう事なのかと、思い耽るとなかなか興味深い映画でした。

 イスラエルは女性も2年間徴兵に行くらしいですが、やっぱり、監督自身も徴兵を経験されているんですかね。
 映画中で、検問所のシーンで唯一女性兵士が出て来たけど。