2023年日本公開映画で面白かった順位:86/132
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★☆
※以下、敬称略。
山田洋次監督が手がける『母』3部作の完結編。
思うところはあれど、過去2作品と比べると面白いなと個人的には思った。
まず、過去作についてだけど、2007年の『母べえ』、2015年の『母と暮せば』を経ての本作である。
いずれも話のつながりはまったくないけれど、吉永小百合が“母”を演じているというのだけは共通している。
がしかし、タイトルに"母"がついている割には、このシリーズは"母"感が弱い(笑)
というのも、『母べえ』では長女役が公開当時14歳の志田未来。
年齢的に、吉永小百合は“母”というより祖母のように感じられて、やや違和感があった。
次の『母と暮せば』も、次男役を演じたのは公開当時32歳の二宮和也で、これもまた祖母感の方が強かった(笑)
本作では息子の昭夫を50歳の大泉洋が演じるということで、ようやく年齢的に“母”と聞いて腑に落ちる設定になった。
ただ、昭夫との関係性だけなら“母”という見え方は問題ないとしても、大学生の孫の舞を永野芽郁が演じていたので、これまた祖母感が出てくるのだけど(笑)
なので、結局このシリーズはどこを取っても"母"とは思いづらいところがある。
でも、包容力とかいっしょにいて安心するとか、そういう概念的な意味合いでは、吉永小百合に対してこれ以上ない母性は感じる。
で、このシリーズはその“母”が何かする話かというと、それもまた違う。
“母”日常と、彼女を取り巻く人々のあれやこれやを描いた家族の物語なのだ。
そして、シリーズ共通して彼女は“母”であると同時にひとりの女性としての側面も描いており、必ず色恋が絡んでくるのも特徴的だ。
過去2作では、吉永小百合は想いを抱かれる立場であったけど、今作では初めて自分から恋をしていたのが新しいなと思った。
そういう点でも“母”と感じづらい部分はある。
そんな中で、僕は今回の作品がシリーズの中で一番面白いなと思ったんだけど、その理由は昭夫に感情移入しやすかったから。
過去2作は時代設定が戦時中ということもあって、どこか他人事のように感じられてしまったけれど、今回の舞台は現代。
そこで昭夫は自身の離婚と、娘の家出と、人事部長としての会社のいざこざと三重苦に陥っているのだけど、そのどれもが今の自分にはわかる話だった。
いや、別に自分がその渦中にいるわけではないのだけれど、身近な出来事だなって(笑)
まあ、そこで“母”がなんとかするっていうわけでもなく、彼女は彼女で自分の人生を楽しんでいるので、タイトルに"母"がついている割にはそこまで前面に出てこないのはちょっと気になるけど(笑)
タイトルの意味もラストまで観てようやくわかるって感じだし。
ほぼ群像劇に近いかなー、これ。
2021年の『こんにちは、私のお母さん』っていう中国映画の方が“母”感強い。
そんなわけで、“母”よりも所帯持ちのサラリーマンの悲哀に焦点を当てた映画だったかなあ。
そういう意味では、過去2作よりも個人的に刺さって面白いと思ったし、感情移入できる人も多いのではないかって感じる。
舞台は現代ながらも、どこか昭和感漂う雰囲気にノスタルジーを感じられるのもよかった。