瀬口航平

《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐっての瀬口航平のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

創作のプロセス見るの大好物だから面白かった。
みんなのレビュー見るとすごく険悪とか緊張感とかあったから、そのイメージで見たんだけど、おれは何だかとても普通のやり取りのように感じた。特にアケルマンとセイリグのやり取り。

アケルマン『感覚で演技することはない?』
セイリグ『そのとおり(ないわってことだと思う)』
ここは俳優側から意見を言わせてもらえば怠慢だと言う方もいると思う。。。ある意味こんなこと言えるのは潔いし、わたしはこういう俳優なの!と正直に伝えた上で創作できるから、正直さがベースにあるという点ではとても良い気もする。

アケルマン『すべてを説明したくない。テキストを読んで、あなたの感じたことをやってほしい』
セイリグ『あなたの意図を理解したいの』
あなたの本なんだから、あなたに意図を説明してもらいたいセイリグと、感覚的で、おそらくはあまり予定調和的になりたくないアケルマン(登場人物の生活は予定調和的なものを望んでると思うけど)の対話。
セイリグもアケルマンも作品作りにおいての考え方に相違があるので言いたいこと言ったらそりゃ対立するしかない。ストレスはかかるけど、でもそれをぶつけあって創作できるのはお互いを本当に理解するためだとか、それぞれがそれぞれの持っている価値観を更新する上でとても良いことだと思う。(後者は何となく実現難しそうな感じだけど)

セイリグに関してかなり好意的に書いたけども、実際こんなことされたらかなりめんどくさい俳優だと感じるだろうな笑
セイリグがこんな態度を取っても仕事があるのはこの時点ですでに名優として名を馳せていたからだと思う。
そして今日は最終日の上映だったからなのか、いつもそうなのかわからないけど、上映前に、アケルマンとセイリグの親交についてお話があったのがとても良かった。彼女らは生涯を通して公私共に深い仲だったとのこと。他人からしたら一見険悪なやり取りでも、人生という長いフィルムから見た一コマにしか過ぎないものだったんじゃないかと思う。そういうやり取りを楽しんでるとも言える。
創作現場ですごいバチバチしてるのに、何十年と深く付き合ってる方々をおれは何人も知ってる。戦友のようなものなのかも。他人から見てどうこう言えるようなものではないのだとも思うし。

ただ、セイリグと若い女性の音響技師のやり取りはセイリグが少し過剰な感じもした。。まだ未来のある若い女性に伝えたいことがあるという体で、自分に対する扱いに不満を抱き、感情的になってるように見えた。自分を守るために怒ってるというか。
こういう態度は若い人からしたらすごく迷惑だとは思う。。。あなたのために、というものが感じられるだけに。。それだけ何か癪に触る態度だったのかもだし、そうやって彼女は生きてきたんだろう。。。だからこその名演もあったかもしれない。

ただ、この映画はアケルマンが編集してるのであって、セイリグの編集は入ってないのはポイントだと思う。アケルマンみたいな監督がそんなことするとは思えないけど、自分に都合の良いシーンを切り取って上映してるのであれば、この映画だけでセイリグのことをどうこう言うことは難しい。もしかしたらセイリグを擁護できるようなシーンもあったかもしれないし。

セイリグのインタビューのシーンも面白かった。女性が女性の作品を描くことについての話とか興味深かった。女性に選択肢があるというのが大事、とかはとても納得した。
女性はみんなフェミニストよ、というセリフで隣の女性が頷いてた。男だからそう思うのかもだけど何だか深いなと思った。

この作品を見て良かったのは、アケルマンとセイリグのやり取りを普通のやり取りだと思える自分がいたこと。創作におけるこの程度のストレスは当然ありうると思えた自分に少しほっとした。おれはまだ俳優やれそうだと思ったから。
瀬口航平

瀬口航平