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殺しを呼ぶ卵 最長版の消費者のレビュー・感想・評価

殺しを呼ぶ卵 最長版(1968年製作の映画)
3.7
・ジャンル
サスペンス/スリラー

・あらすじ
良家の出である妻アンナと養鶏場の経営をするマルコ
一見すると悠々自適に思える暮らしぶりの彼だったがその裏では鬱屈とした思いを抱えていた
事業の実権や財産はほとんどアンナが握っており、自身は退屈な決断を迫られるばかりの日々
そんな人生から逃避する様にマルコは娼婦へとサディスティックな欲望をぶつけ、同居するアンナの姪ガブリーとの不倫関係に耽っていた
そしてとうとうアンナを排除し2人で新たな生活を始めようと計画するのだがガブリーは裏で広告マンのモンダイーニと共にある謀略を練っており…

・感想
怪作という評判を以前目にして気になっていたので鑑賞したものの思った以上に前衛や実験を感じる作風で驚いた

終始流れ続けるフリージャズ的な劇伴、奇妙なカメラワーク、度々挟まれる意味深なショット…
一方でストーリーは思ったより複雑ではないものの何せ説明がかなり省かれているのでいわゆる頭の体操を強いられる作品

恐らく本作で描かれているのは人間が産み出したはずのシステムに支配しているようでむしろ支配されている現代社会の持つ歪な均衡が軸となっている
その中に現れる登場人物達のタイプは3つに分けられる
がんじがらめな現状から抜け出したい者
支配者という立場を維持したい者
支配権を奪い取りたい者
しかしこの三者は均衡を破壊しようとした者同士、奇妙に絡み合った末に混沌へと呑み込まれていく
その象徴が遺伝子組み換えの結果、突然変異と化した鶏の雛達(それへの反応の違いも印象的)
これは前進のみが許され停滞、後退、離脱は許されないという無情さ、社会自体もまた望み通りに動ける訳ではないという現実等を示しているのではないかと感じた
事あるごとに現代でも引用されるニーチェの「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という言葉に文明社会の不可逆性や結果の予測不可能さという要素を掛け合わせた様な世界観は異様な物でありながらも妙な深みがある

と、小難しく解釈を述べたものの「じゃあ映画として面白いのか?」と問われると何とも言えない
終盤のそれぞれの意図が思わぬ方向に転がっていく展開は良かったんだけどそこに辿り着くまでがいかんせん長く作風の歪さも手伝ってノリづらい物になっていたのが個人的にはどうしても引っ掛かったので…
いっそコミカルな方向に振っていればもう少し楽しみやすかったかも?
とはいえ視覚的、聴覚的には面白かった
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