むさじー

⻘いカフタンの仕立て屋のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

⻘いカフタンの仕立て屋(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<精緻に紡がれるそれぞれの愛>

モロッコで、伝統的なカフタンドレスの仕立て屋を営んでいるハリムとミナの夫婦。職人気質のハリムを誰よりも理解し支えてきたミナは末期がんのため余命わずかの身で、そこにユーセフという若い職人が現れる。誰にも言えない孤独と秘密を抱えた三人は、カフタン作りを通して絆を深めていく。
簡単にいえば仕立て屋夫婦と若い職人の三角関係なのだが、同性愛と夫婦愛が微妙に絡んで、広く人間愛みたいな世界に導かれていく。少なくとも単純なゲイ映画ではなく、三人の心の変遷が肝で何とも味わい深い。
夫のハリムがバイセクシャルであることを妻のミナは薄々感じていて、ハンサムな若者ユーセフの登場に嫉妬心を抱く。不安は的中して彼も夫も互いに好意を抱くが、ユーセフの告白をハリムは心ならずも拒絶する。それは死を間近にしたミナへの愛情を貫くため。一旦三人の関係は壊れるが和解して家族のような関係になり、やがてミナは自分の死後残されるハリムへの思いを強くする。夫とその恋人、男同士の危険な関係を妻が受け入れて力強く背中を押す‥‥。三人のお互いを思いやる気持ちがとても深くて、夫婦愛とか同性愛とかの枠を超えた人間としての大きな愛が見える。
背景にイスラム国であるモロッコの厳しい戒律があることは確かだが、人と人の愛にタブーはなく、法律や戒律があっても変えようがないと実感させられる。そんな強い愛の姿を丁寧に描写した脚本と演出は秀逸である。静かで繊細で濃密で、そして優しい時間だった。
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