こたつむり

薔薇の名前のこたつむりのレビュー・感想・評価

薔薇の名前(1986年製作の映画)
4.2
14世紀。北イタリアの山奥にある修道院。
厳粛な雰囲気の中で次々と発見される死体。それらは全て黙示録に見立てることが出来た。はたして、この修道院に秘められた謎とは?宗教のあるべき姿とは?ウンベルト・エーコのベストセラーを映画化した宗教ミステリの傑作。

いやぁ。これは。ど真ん中ストレート。
僕の好きな要素ばかりで作られている作品でした。冒頭からして…塔の下に転がった転落死体。しかし、窓は嵌め込み式なので、人が落ちることは不可能。果たして、これは不可能殺人なのか?悪魔の仕業なのか?…という王道ミステリ。おうおうおう。これですよ、これ!

しかも、世界観が琴線触れまくりなのです。
黙示録を見立てた死体。異端審問官による尋問。閉じられた世界での同性愛。自虐的に鞭を振るう修道士。悪魔崇拝。隠し扉に迷宮。宗教論争に禁書…中世暗黒時代を網羅した舞台設定や小道具(因みに漫画『ベルセルク』に似た雰囲気…と書けば伝わりますでしょうか)。おうおうおう。きたこれ!最高!

しかも、頭脳明晰な主人公演じるのが。
ショーン・コネリーですよ。うは。濃い。この重厚な世界観に負けない存在感。流石であります。その助手として活躍する弟子はクリスチャン・スレーター。うは。美少年。こんな彼が過激な場面を演じちゃいます。おうおうおう。煩悩を直撃。ズキュン!

と、まあ。手放しで賛美しましたが。
純粋にミステリ部分だけを取り上げると首を捻りたい展開もあります。また、重厚という評判の原作を上手く映像化できているかどうか、という部分も厳しいかもしれません(僕は原作未読なので判別できませんが…)。

しかし、本作で大切なのは雰囲気。
異形の修道士が集う世界の果て。
神の威光に縋る貧者たちの汚らしさ。
そして、圧倒的なまでの存在感を誇る修道院。これらの映像が見どころの130分なのです。そして、本作の中でも語られる「欠点を愛する」こと。これに言及しただけでも、宗教ミステリとしては十分であると思います。

ちなみに監督さんは。
『セブン・イヤーズ・イン・チベット』や『スターリングラード』を製作したジャン=ジャック・アノー。なるほど。物語の焦点は外しやすいですが、世界観を構築させたら一流の監督さんですな。本作の題材はピッタリでありましょう。

まあ、そんなわけで。
本作で着目すべくは脚本ではなく世界観。そして雰囲気。宗教や歴史に詳しければ深くまで堪能できると思いますが、知らなくても大丈夫。無知な僕でも楽しめていますからね。中世の暗黒的世界観とミステリが好きならば、お試しあれ。
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