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兇弾のmのレビュー・感想・評価

兇弾(1949年製作の映画)
3.0
ハリウッド映画的な娯楽性を極力抑えることで、戦後すぐのイギリスの市民の生活がリアルに伝わってくる佳作。

犯罪映画の体を使っているけど、主題は市民生活なんじゃないかと思う。

事件を追う警察官が主体で話が進んでいくけれど、多数の登場人物の誰かに特にスポットが当たっているわけでもなく、全員をかなりフラットに公平に、誰かに感情移入することなく演出されている。そのあたりがドキュメンタリー・タッチに見える所以かも。

主な登場人物は、巡査部長のジョージ、新米巡査のミッチェル、ロンドンの不良青年トムとスパッド、トムの恋人で家出娘ダイアナ。

物語は、浅はかなトムが引き起こした強盗事件を追う展開。

群像劇としても秀作だと思うけど、その事件を追う展開の隙間に見える、戦後すぐのロンドンの街並みや人々の生活ぶりが、昭和30年代の日本の市民生活と被ってきて魅力的。

英国アカデミー作品賞を受賞したと聞くと、ずいぶん地味な作品に与えたなあと思うけど、逆にこういう地に足がついた作品に賞を与える英国アカデミー賞に好感が持てるとも言える。

同時期に制作されたイタリアの戦後の市民生活を描いた名作『自転車泥棒(1948)』と見比べてみるのもいいかも。戦後の市民生活と言う同じ主題を、片やいたって真面目に、片やサスペンスタッチでという全く違う切り口で描いていて興味深い。

地味だ地味だと書いちゃったけど、ラストのドッグ・レース場でトムを追い詰めていく展開はスリリングな演出で見ごたえ十分。
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