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クリード 過去の逆襲のnetfilmsのレビュー・感想・評価

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.7
 いきなりスクリーンの音響にDr.Dreの『The Watcher』が流れて思いっきりぶち上ったのだが、LAへの帰郷=G-FUNK的なハスリングがアドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)をもう一度リングへと駆り立てる。前作『クリード 炎の宿敵』でのイワン・ドラゴの息子ヴィクターとの血みどろの死闘を繰り広げた彼の前にはもはやモチベーションの種を見つけるのは難しいのかもしれないが、それでも何も引退する必要はなかろう。さながら現在のアドニスの姿はフロイド・メイウェザー・ジュニアのようなセレブな億万長者として何不自由のない生活を送る。現在は次の世界王者を育て上げる名伯楽となり、プロモーターとしても優秀な彼の前には何の障害もないかに見えて、1人の男が突然彼の前に立ちはだかるのだ。危険な幼馴染「ホーミー」の登場は、アドニスにとってコインの裏表のような存在であり、正に彼の人生の表と裏だ。拳で世界王者へとのし上がり、ビアンカ(テッサ・トンプソン)という美しい伴侶と一緒になり、今は可愛い娘を育てる子煩悩な父親と、ブタ箱に18年も押し込まれ、光の差さない獄中生活を送って来た男とでは昔と今では地位も名声も何もかもが違う。

 善と悪、加害と被害、表と裏、光と闇。それらが全て混濁した世界をアドニスも彼の兄貴分だったダミアン・アンダーソン(ジョナサン・メジャース)も生きている。 億万長者となったアドニスは刑務所帰りのダミアンの為に少しばかりの施しを用意してやり、の場面まではヘイ・ブラザー的な友情に見えて清々しかったのだが、その後フェリックス・チャベス(ホセ・べナビデス)の相手が拳を負傷した代役で、プロデビュー戦のダミアンをWBCヘビー級戦の相手に指名するという何ともボクシング界のリアリティを欠く選択をしている辺りで「おやっ」と思った。1戦目で世界挑戦というのはどんなに緊急事態であろうが有り得ない。先日ヘイニーに惜しくも敗れたワシル・ロマチェンコですら3戦目での王座獲得となる。メキシコ系選手が見事なかませ犬になるというのも流石にあんまりだと思うが、そもそも彼の体格は見るからにヘヴィー級ではない。『ロッキー』シリーズが流行った頃と違い、今は目の肥えたファンが世界中のタイトル戦を見られる時代になった。私の見立てではマイケル・B・ジョーダンはスーパーミドル級で、ジョナサン・メジャースはマイケルよりもフレームが大きく、クルーザー級辺りじゃないかと見ている。今作は母メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)がアドニスの防波堤になるのだが、彼女の最期があんまりだったり、いつの間にかダミアンがWBOとIBFのタイトルを奪取していたり、とにかく後半のカタルシスが軽やかなダイジェスト映像になってしまい、ロッキーの頃のように泣けなかった。然し乍らIMAXカメラの挙動は正直言って凄まじいとしか言いようがない。きめ細やかな筋肉の躍動や細かい汗すらはっきりと見えて、その技術の進歩にはひたすら驚く。
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