りっく

オットーという男のりっくのレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
4.2
本作を観てまず浮かんだのは『グラン・トリノ』との関連性だ。他人を寄せ付けない堅物なキャラクター、死んだアメリカを自治しようとする思想、そこに越してくる移民との軋轢と交流、日本車を憎みアメ車を大切にする点までトム・ハンクス演じるオットーと、イーストウッド演じるコワルスキーは共通点が多い。

ただし、オットーは軍隊に入れなかった。だからこそ、自治会というミニマムな単位で外部からの侵攻を防ごうとするところに説得力が生まれる。アメリカの死を嘆きつつ、常に生まれてこれなかった子供や妻の後を追おうと、死に惹かれている。この引き裂かれた感情を抱えながら、堅物を演じるハンクスの演技の奥深さに胸を打たれる。

空間の見せ方も巧みだ。高い塀を下から上へと移動するカメラワークが随所に挿入され、町を俯瞰すると同じような住居に、同じような車庫が並ぶ無機質で画一的な箱庭のように見えてくる。オットー(OTTO)という名前もシンメトリックで、彼の性格を端的に表している。

また、首吊りは上から下に落ち、線路では下から上に引き上げられ、バスの横転ではその上下が何度も逆転する。この上下の動きによってオットーは何度も死ぬことを許されず生かされる。その空間での動きが、何かの力によって作為的に彼が生かされているようにも思える。

本作が素晴らしいのは、決して塀を乗り越えて外の世界を見よう、閉鎖的な人間関係から抜け出そうといった風呂敷を広げることで死の悲しみを克服させるのではなく、あくまでも生涯をかけて守ってきた自治会という単位で、自分の価値を認めてくれる、共に地域に住まう、既に縁がある人間たちに目を向け心を開くことで、文字通りモノクロであった人生が色付くさまが実感できる点だ。

あるコミュニティの中で暮らし続けることは、良くも悪くも人間関係や生活が硬直し、ルーティーンとして日常をこなすことになりかねない。だが、人間は心の持ちようでいかようにも人生に彩りを持たせ、そして新たなコミュニティの形を未来に繋げることができるのだ。
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