【第95回アカデミー賞 国際長編映画賞ショートリスト選出】
サーイム・サーディクの長編デビュー作。カンヌ映画祭ある視点部門に出品され、審査員賞とクィア・パルムを受賞した。アカデミー国際長編映画賞パキスタン代表に選出されショートリストまで残った。
非常にいい作品。パキスタンでは当初上映禁止になったそうだが映画人らの働きで順次公開されたそうだ。しかし監督の出身地で本作の舞台であるパンジャーブ州では未だに上映禁止だという。
クィアの差別を描く辛い作品かなと思っていたが、群像劇的な側面が強い。どちらかというと家族ドラマ。
子どもを待ち望まれる若い夫婦とトランスジェンダーのダンサーを描く。無職の夫とヘアメイクの妻の繊細なキャラクター描写が非常にいいし、トランスジェンダーのビバをめぐる描写も誠実。
「わたしの願い」という副題はやや安直な気はするが、それぞれ表に出せない願いを持っているという意味では合っているのかも。
もちろんトランスジェンダーへの差別、偏見の描写はあるが、それ以上に女は家庭で子どもを育てろという圧力も強く感じる。それに抗おうとする妻、勇気を持って自分の願いを叶えようとする夫もよかった。
全てが丸く解決したとは言いがたいエンディングだが、これからの希望のようなものを感じさせるいい終わり方。パキスタンでトランスジェンダーとして生きるのは本当に大変だろうなぁ。ビバを演じたアリーナ・ハーンは実際のトランスジェンダーであり、人権活動家でもあるそうだ。
映画としてもじっくりとみせていくストーリーテリングは堂に入っているし、印象的なシーンも多々ある。今後偏見が根強い中東でどのような展開をみせるのか注視したいところだ。
映画として素晴らしいのはもちろん、パキスタンにおける現実を炙り出す一作としても大変意義のある作品だ。テンポが良く飽きないし、非常によく出来た作品だった。