きゅうげん

ゴジラ-1.0のきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

令和ゴジラはまさかの“昭和ゴジラ”!
メガホンをとったのは「古き良き日本」を描き続けてきた山崎貴監督。近年の“昭和レトロ”ブームのパイオニアの一人と言えるでしょう。
しかしフィルモグラフィを彩る懐古趣味は、理想視から漂白され欺瞞に満ちたファンタジックな昭和である、としばしば指摘されてきました。そんなこれまでの監督作品たちがすべて壮大な前フリであるかのように映る、終戦直後の日本を再び恐怖のどん底へ突き落すのが、今回の“昭和ゴジラ”。


ゴジラとは、日本のトラウマの象徴です。
それは古くは「原爆の恐ろしさ」「戦争の愚かしさ」「死者の虚しさ」を背負った存在であり、最近では「自然災害の理不尽さ」にも重ねられる存在になりました。例えば1984年版『ゴジラ』『大怪獣総攻撃』『シン・ゴジラ』など、つねに忘却を許さず反省を求める現代日本への戒めそのものが、上陸してくるゴジラの体現する恐怖なのです。
わけても前回『シン』は「前半:震災→後半:原爆」と、その象徴性を活かした現代ゴジラの決定版といえるもので、SFに活路を見出した後続アニメ作品群とは裏腹に、実写映画の試みはその後長くにわたり二の足を踏まざるを得ませんでした。

ところで、現在のエンターテイメントはとてもポストモダンに消費されています。ゴジラも例外でなく、例えば“昭和レトロ”をテーマとした西武園ゆうえんちの目玉は、それこそ山崎監督自身が監修した『ゴジラ・ザ・ライド』です。毎年恒例のゴジラフェスも何かしらのアニバーサリーイヤーのお祝いになり、また個人的な作品鑑賞についてもストリーミングやサブスクリプションの一般化で、シリーズの年代・媒体を問わず俯瞰的・横断的に楽しめるようになっています。
ノスタルジックなリバイバル・ブームとポストモダンな鑑賞体験、これが混然一体となった結果、改めて終戦直後へ回帰する山崎ゴジラが可能になったのではないでしょうか。戦争から遠く離れた現在にこそ、戦争のトラウマを最も体現するゴジラ映画を再び作る意義は確かにあると思います。
そのトラウマはPTSDを患う敷島君を中心とする物語のドラマにも落とし込まれていると言えるでしょう。

とはいえ、終戦直後の日本は俎上に載せるにはセンシティブな話題ばかり。
とくに映画内でしばしば耳にする「民間」という言葉。旧軍時代との違いを強調したいのでしょうが、しかし後半のクライマックスであるゴジラ昇降作戦は元海軍有志によるもので、これでは台湾における白団と同質の問題を孕んでしまっているように思います。もちろん元帝国軍人が過去と決別するため、武器を使わず犠牲者も出さずにゴジラを無力化する内容はベターといえますが、しかし帝国日本時代の負の遺産やトラウマというものは、帝国軍人でしか乗り越えられないものなのでしょうか。
また最終盤、南洋戦の戦没者と重なるゴジラに軍人さんたちが敬礼をするのは至極まっとうですが、しかし民間人や技術者などは軍隊礼式をとるべきではなく、演出的にも作劇的にも何だかモヤモヤ感が……。
戦後日本でもっっっとも重要視すべき「民主」的な視線が欠落してしまってるように思います。「民間」といえども「民主」たりえない。皮肉にも戦後日本を象徴するように映りました。
まぁ、高雄登場とか震電登場とか海軍好きとして涙ちょちょ切れるくらいブチあがっちゃったんですけど!!!


それとやっぱりスペクタクルの規模感が、レジェンダリーの『ゴジラ』シリーズ以後にあってどうしても見劣りしてしまう印象です。
バラックや闇市の朝ドラ感もさることながら、ゴジラのバトルフィールドがどれも閉塞的で、序盤の島での前哨戦も前半の山場となる銀座蹂躙も、ゴジラが踏み荒らしたのは一区画分くらいにしか映りません。焼け野原でスコーンと抜ける背景にゴジラのバストショットって画も、なんだかミスマッチ感が否めず……。
(……熱線シーンはメチャクチャよかったですが)
後半も農村のジオラマ感が、良くも悪くも昭和シリーズ終盤よろしくゴジラを閉じ込めているランドスケープに見えて残念。来日中のギャレス監督も鑑賞後まっさきに確認したのは予算だったとか。
とはいえ、レジェンダリー・ゴジラと国産ゴジラ(とくにミレニアムシリーズ)との合いの子っぽい山崎ゴジラの造形自体は素晴らしかったです! 
放射熱線ためるときに突き出る背鰭!!!


簡単に首肯するわけにはいかないものの、最後には『大怪獣総攻撃』オマージュなコンテニュー要素もありましたので、これからは在りし日のプログラム・ムービーよろしくゴジラ映画をバンバン作っていける道筋が再び見えたといえるのでは?
この終戦ゴジラが現代に再び上陸する……って感じで、それこそ『大怪獣総攻撃』的に「約半世紀ぶり二度目!」みたいな趣向で続編が作れそうですね。