Jun潤

ソフト/クワイエットのJun潤のレビュー・感想・評価

ソフト/クワイエット(2022年製作の映画)
3.4
2023.06.06

予告を見て気になった作品。
なんだかゾクゾクするような雰囲気。
ワンカットスリラー×人種差別ということで、なんだか色んな感情がぐちゃぐちゃになりそうですが、期待です。

町で教職に就いているエミリーはある日、自身が主催するとある会合に参加する。
その会合の名は「アーリア人団結をめざす娘たち」。
多様性の受容や有色人種・移民差別のタブー視に対して、愚痴を言うだけかに見えた話し合いは、やがて大きな行動の話へと広がっていく。
会合場所として借りていた教会の神父に拒絶されたエミリーたちは、一旦解散して飲み直すことになる。
メンバーの一人であるキムが働くお店でお酒や食料を調達していると、店にアジア人種の姉妹が訪れる。
一触触発する彼女たちも、その場が一旦収まっても腹の虫が収まらず、姉妹の家に忍び込むことに。
最初こそ柔らかく、静かな彼女たちの抵抗は、急速に狂っていくー。

ふむふむ、なるほどなるほど、、。
序盤の話し合いシーンこそ、急速に高まる多様性の受容や差別撤廃の意識に対し、その皺寄せを喰らう市民の静かな抵抗のような様相でしたが、一人の声が他の人を巻き込み、やがて大きく、そして取り返しのつかないものになっていくという、人間の弱さや醜さなどの本性を描き出し、それはそれは悍ましいものを観せてきました。

今作の大きな特徴でもあるワンカットについては、普通の主婦たちが罪を犯していく過程をノンストップに見せつつ没入感を高める演出でしたが、個人的にはもう一つ、これがエミリーたちだけの視点であることを強調するためのように思えました。
差別する側される側、世論の変化についていけない人たちの愚痴や不満は特別なものではなく、大小様々な形でどこにでもあるもので、今作でエミリーたち以外の視点を入れなかったことで、明確にそのことは表現せず、鑑賞後感としてそのことをじんわりと感じさせる役目も担っていたと思います。

今作だけでなく、戦争映画や戦争に関するコンテンツを見るたび、言葉を発し、感情と理性がある人間であるはずなのに、なぜ対話で解決できないのか、なぜ相互に理解ができないのかと感じます。
色んな課題や問題点があるとは思いますが、今作を通して感じ取れることとしては、そこには恐怖よりも、自分たちよりも優秀なもの、成功しているもの、被差別の恩恵とも言えるものを享受していることに対する妬み嫉みがあるのではないでしょうか。
そうした人間の弱い部分は、自身の心の内から静かに、柔らかく全身を蝕み、それが周りの人間に伝播していく。
今作のように犠牲者が出てしまうところまで至り、これが国のような巨大な集団心理に陥ってしまうと、戦争や虐殺のような、もっと取り返しのつかない惨劇に繋がっていくのかもなと思いました。
Jun潤

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