Kuuta

怪物のKuutaのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.4
第3幕だけで2時間見たかった。やっぱ子供を撮る是枝さんが一番見たい

悲痛な魂を救う「昇魂」か、地下に弔う「鎮魂」か。街の俯瞰、学校の吹き抜け廊下、火災の野次馬など、大人が見下ろす視点に縛られ、子供の「地平」は第3幕まで見えない(校長だけは床を磨く。保利先生は転んで作文に気付く)。

燃え上がる情動(依里の家のオブジェ)、炎のティルトアップに始まり、しつこいほどの階段描写、思いのまま駆け上がろうとするアクション(保利先生パートもエレベーターから)。クリーニング屋の昇降機がなんか見慣れない機械で良かった。突っ走ろうとした矢先、その運動に冷や水を浴びせる転倒、「汚れ」を落とす水の存在、消しゴムへの違和感、といった演出もよく出来ている。

・上下動を両立させる円運動が2人を包み、泥の星空を眺め、宇宙の終わりを信じて登り続けた先、地下に落ちて胎内潜りを終え(律儀な演出)、新たな「地平」が広がる。

・怪物とは、未成熟な少年が愛情を知り、それに怯えるあの見事なシーンに集約されていると感じた。押したり引いたりの人間関係、組織の内と外、白線の外の地獄を知った湊。隣席の女の子は言動をころころと変え、大人たちは両岸をつなぐ橋を無意識に渡る。川を軸とする一つの水の流れを、別アングルから繰り返し撮った作品と言える。

立場は容易に入れ替わり、誰もが怪物になり得るのだと気づきつつ、愛さずにはいられない。禍々しい感情に触れてしまった少年の戸惑いが、今作の根幹にある。「LGBTQに特化した作品ではない」という是枝さんの発言とこうした構成に矛盾はないし、公開前に炎上した理由が私にはよく分からなかった。

・是枝作品では「奇跡」が好きな私からすると、第3幕が魅力的に映った一方、ある種のネタ振り、ステレオタイプの羅列でもある第1、2幕は退屈に感じてしまった。湊と依里の感情に更にフォーカスして欲しかった。

・ガラスの向こうから出てくる湊のファーストショット凝ってるなぁ

・実は一人で暴れていたという場面、相米慎二みたいで好き。雨風が家に吹き込む第1幕の終わり方も大袈裟で好き

・翌日追記:第1部、2部の緊張感と、第3部のファンタジックな展開。この落差は何なのか、考えてしまった。結局、クィアな恋愛を不可侵な世界として描くこの映画は、過去の映画が繰り返してきたマイノリティの神話化を何ら脱するものではない。ステレオタイプの危うさを扱った映画なのに、こういう描き方で本当にいいのだろうか。「得意の子供描写をいつも通りやった結果、彼らを包摂しない、突き放す話になっていないか?」という疑問は残る。
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