へいゆ

怪物のへいゆのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.8
物事は一面的ではないということはもちろん、見る視点や置かれた境遇によって世界の見える範囲はまったく違うということと、
それを分かって必死に深くを見ようとしてもモヤがかかったり何かが邪魔してクリアに見ることがとてもむずかしいのだということ、
誰もが誰かにとっての怪物であり、深く知ればしるほどに線引がむずかしいこと。
そして安易に誰かを怪物に仕立てることで安心してしまうこと、それは同時に多面的な見方や深く知ることを止めてしまうこと、それって実は、そんな深く知りたくないのかもしれないということ。

母親は息子の様子から、息子がどんな境遇にいるか想像し周囲に訴えて物事が進んでも、息子が悩む真実にはたどり着けなかった。
親視点で観ちゃうとなんとも悲しいしつらいよな。

書けば書くだけ言いたいことがこぼれ落ちちゃう。

インスタ用に書いた文も残しておく。
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この映画は家族の関係性がひとつのベースにあるが、小5の息子と母親の「分かりあえなさ」がずっと横たわっているのがつらい。
息子が先生からハラスメントを受けてるかもしれない、息子がクラスメイトをいじめているかもしれない、死んだ夫と約束したからあなたが結婚して家庭を作るまでは私がしっかりとあなたを育てるの。すべてが愛情ゆえの行動言動なのに息子は本当のことを話してくれない。
とても些細な悩みなのに親に気を遣って言えなかったり、親が無意識に常識を話し続けることでそれが結果的に無意識な押し付けになり、こどもが思う幸せややりたいことや希望を親に話せなくなること。
この映画の物語はすべてがそこから始まっているように自分には感じる。
そんな内容に、自分はなんだか安心を与えてくれた。
自分は親になって何年かたつが、こどもが成長するたびに、子どもを育てるということの自信は小さくなるし、子どもが何を考えているかがわからなくなるし、どうやって生きる術を教えていけばいいのか、悩みばかりだ。
まわりの親がみんな優秀に見える。疑いなく自分の信念をもって育児しているように見える。もちろんみんな悩みながらやっているとは思う。でも、わが子を信じ切る、ということは多くの親が子どもに対して抱いていることだと思う。僕はあまりそういう思いを実は持てない。「人に迷惑をかけたらどう話したらわかってもらえるだろうか」とか「加害者になったらどう更生させようか」とか「もし学校で嫌なことがあったって話されたら、その言葉をそのまま信じていいんだろうか」とか思う。

親になると自分の子どもがかわいいし、自分の子どもに限って変なことは言わないとか、悪いことができるわけがないとか、普段あんなに優しいんだからとか、同性を好きになるはずないとか、もしなったとしてもわたしたちは受け入れられるよとか。そういうことをけっこう簡単に言う。僕もそう。
でもそれは、こどもの一側面しか見られなくなるきっかけになっているかもしれない。そういう言葉が実はわが子を苦しめているかもしれない。
誰だって我が子や家族がかわいいし大事だ。世間と家族は明確に線が引かれている。

この映画の母親は学校に乗り込んで、担任の先生や校長に苦情を繰り返し伝えるものの、それが息子の悩みの解決には直接的につながらない。
息子を愛するあまりに真実が見えなくなってしまった。

この世界には、視えないものがあるということ。
僕たちは見えているものだけで物事を簡単に判断してしまい都合の良い解釈をし、相手と分断をし、無意識に人を傷つける。
怪物は自分の中にもいるのに、誰の中にもいるのに自分は普通だと思い続ける。

自分に限って怪物なわけがない、見えてない真実などあるわけない、といって自分から視界を遮ってしまうのだ。
ましてや家族のことになったら、物事をフラットにみることはいよいよむずかしくなる。

見聞きしているものが、真実ではないかもしれない、と思いを馳せること。
怪物性すらも受け入れられないかな、と一度考えてみること。そういうことをやっていければ良いなと思わせてくれる映画だった。
へいゆ

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