もりたま

怪物のもりたまのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

何をどう表現しようとしても、私の拙い言葉ではこの映画体験を薄っぺらくしてしまう。私のみた光景、人間という生物、聞いた言葉、音、音楽、全てが映画だから成り立っているもので、カンヌ国際映画祭出品作品としても、邦画というある種のブランドとしても王道かつ映画であることに意味のある作品でした。


まずは何よりも是枝裕和監督と脚本家坂元裕二に加えて音楽家坂本龍一という日本を代表する創造者、そして安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子という無機質かつ人間臭い演者、これを邦画と言わず何を邦画と言うのでしょう。公開前からこのネームバリューだけで楽しめました。


雨が窓を覆った泥を弾いて生まれる光、鉄道跡地の秘密基地、光が差した草原、黒川想矢くんの声変わりの不安定な声、柊木陽太くんの曇りのないピュアな声、空虚な人間が思いを吹き込んだ楽器の音、どれも目と耳だけではなく、肌でその温度を、気持ちを感じました。是枝監督の手腕には頭が上がりません。

正直、なぜ今までタッグを組んでいなかったのか不思議だった是枝監督×坂本裕二で、待ちに待って期待以上でした。流石です。やはり坂元裕二×田中裕子のクレジットの安心感と劇中の不穏さは崩れませんね。最近の遊びのある作品も好きですが、世間の評価はその遊びの部分が一人歩きしてしまっている感も否めないので、しっかり作り込まれた坂元裕二作品がここに来て脚光を浴びることは、一信者として大変嬉しく思っております。



坂元裕二先生の過去作品から言葉を借りて、この作品に宛てて言うのなら、「怪物なんていないよ。そう決める人がいるだけだよ。」と言うところでしょうか。

他人が決めた立入禁止の場所は、彼らにとって嘘のない幸せな世界で、だとするならば、社会で生きていることで刷り込まれてきたタブーの先には、私の聖域があるのかな、なんて。
もりたま

もりたま