おさむ

怪物のおさむのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

前半、各視点で描かれた怪物は他者。
視点によって誰もが怪物になりうる。

視点という観点で、保利先生の屋上シーンで聴くトロンボーンとホルンの音色と、校長先生と湊が「そんなもの」を吹き飛ばすシーンの音色が全く異なる感情を抱かせる点に、人がどれだけ先入観やバイアスを通して五感を働かせているか伝えていて秀逸だった。

後半、子どもたちで描かれたのは自身を怪物と認識した視点。
湊は星川を怪物だと認識していた。
星川と交流を続ける中で彼を人と認識し、さらに彼を知って怪物と認識し、そして彼を傷つけてしまった自分自身が怪物であることに気づく。

自分自身が怪物だと気づいたとき、自己嫌悪や自己否定に苛まれる。

しかし、自己を怪物だと認識している校長は「誰かにしか手に入らないものは幸せではない。誰にでも手に入るものを幸せ」と呼ぶ。

台風の日、湊は自己否定の沼に沈んでいく星川を引きずり出し、その暗く苦しい世界を風船みたいに弾けさせ、怪物である自分自身を認めた上で、今ここにある幸せを見つける。

人は皆、怪物である。しかし、誰もが幸せを持っている。

自身を怪物だと認識していながら、誰もが幸せを持っているとわかっていながら、誰でも手に入るわけでは無い幸せを追い、自己嫌悪も行い、後悔も抱き、「私は人間です。」と言う。
そんな校長の描かれ方が限りなく愛おしく思いました。
おさむ

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