おさむ

関心領域のおさむのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

その音は確かに鳴っているのに聞こえていない。いや、聞こえているのに認識していない。認識しているのに意識していない。

非情で異常な日常が淡々として感じられるのは、私たちの日常と大差ないからなのだろう。

映画で描かれた家庭はその行為の象徴だったが、収容所の映像を観たとき、これが現実に起こったことであると、どこか過去の話、映画の話と自己と切り離していた物語から、地続きの現実の話に置き換わり、私たちは当事者だと気付かされる。

現在も、世界でも身近な所でも様々な悲劇が不条理が起こっていることに変わりはない。
でも私たちはテレビやインターネットからそれらの情報を得ても、それを自分の痛みとして意識することは少ない。
最初少し驚いたとしても1週間も報道が続けば「またか」と思うだろう。映画で響く銃声に慣れていったように。

収容所の壁の向こう側を意識しないことと、国境や画面、時代、もしくはもっと身近にある職場や家庭の見えない壁の向こうの事実を意識しないことに、行為として違いはない。

明日観るニュースに、聞こえる身近な人の悲鳴に、私たちは事実を受け入れられるだろうか、痛みを、無料さを感じられるだろうか、罪悪感を抱けるだろうか。

現実では、視界一面を真っ赤に染めるスクリーンも、四方から怨嗟の声を浴びせるスピーカーも、壁の外に用意なんてしてくれないのだから。
おさむ

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