サラミ山カルパス

怪物のサラミ山カルパスのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

日本を代表する監督と脚本家と俳優と音楽家が集結した本作を故・坂本龍一氏が携わった劇場で鑑賞するという体験が持つ価値は計り知れない。2017年に見に行った是枝裕和と坂元裕二の対談で坂元裕二が言っていた「加害者を加害者として、被害者を被害者として描かないことを意識している」という言葉通りの作品と言えるだろう。断片的かつ主観的に描かれる登場人物は、坂元裕二が物語の出発点と語ったどうしたって断片的にしか情報を得ることのできない人間そのものであり、自分の目に見えるものだけが全てだと信じて疑わない人間生来のエゴを体現している。

「私が以前経験したことなのですが、車の運転中、赤信号で停車していました。前にトラックが止まっていて、青になってもそのトラックがしばらく動かないものですから、クラクションを鳴らしました。ですが、それでもトラックは動かず、『どうしてだろう』と思っていると、ようやく動き出した後に横断歩道に車椅子の方がいらしたんです。そのトラックは車椅子の方が渡りきるのを待っていたのですが、私にはそれが見えなかったんですね。それ以来、自分がクラクションを鳴らしてしまったことを後悔し続けておりました。このように世の中には普段生活していて見えないことがある。私自身、自分が被害者だと思うことにとても敏感ですが、自分が加害者だと気づくことにはとても難しい。どうすれば、加害者が被害者に対してしていることを気付くことができるのだろうかと、この10年あまり考え続けてきて、描き方の一つとしてこの方法を選びました」
https://screenonline.jp/_ct/17632199

眩しいほどの台風一過の中、美しくも力強い坂本龍一のAquaの中、瑞々しい生命力を纏って走り回る湊と依里の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
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