サンセット

怪物のサンセットのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
[20230709]あ…ありのまま起こった事を話すぜ! 胸糞なイジメの話かと思ったら芥川の『藪の中』みたいになって、いつの間にかジュブナイル要素も感じる繊細なクィアの物語になっていた…。そして怪物は登場人物みんなで、観ている俺も怪物で、あるいは怪物はただの幻想だった…。な…何を言ってるのかわからねーと思うが……。

序盤とかで先生達の態度が悪すぎて後の展開に違和感もあったけど、秘めた気持ちを言えないまま誤解されていく様子は共感できる所もあった。謎解きのような展開とともに繊細なテーマが明かされていった後、ふわっとした終わり方をするので物足りなさも感じたけど、核心的な部分が分かりにくく描かれているのはまあ意図的で、観た後に思い出しながら登場人物の気持ちを考えたのは新鮮な体験でもあった。最後の方はもっとジュブナイル的展開になったら面白そうと思ったけど、ビッグクランチが起きて2人だけの世界に行ったのだと思いたい。

相変わらず是枝監督は子供を撮るのが上手いけど、子役の一人は柳楽優弥を思わせる一方、もう一人は明るくハキハキ話すタイプで、またいい子役を探してきたなと思った。また監督は、インタビューで怪物について、「LGBTQに特化した作品ではなく、少年の内的葛藤の話と捉えた。誰の心の中にでも芽生えるのではないか」と答えたらしい。同性愛とかに限らない怪物(社会にとっての異物のようなイメージか)なら、自分の中にもあるかもしれないが、だとしたらそれを怪物と呼んでほしくない気もした。脚本の坂元さんは「加害者をどう描くか考えていた」とも言ってたけど、悪気はないはずの母親や担任も加害者と呼ぶならそれも辛いなと思った。あと坂本龍一の音楽を(色んな意味で)最後に聞けたのがよかった。観てた時に気付かなかったけど、『誰も知らない』の北浦愛が出てたのもプラス評価。

観終えてすぐの時は「ここで終わりなのか」と思ったけど、不思議と何が起きていたのか考えたくなってしまい、何となく仮説が立った後にもう一度観たくなり、その仮説を確かめることが自分にとって大事なことにも思えてくる、そんな体験をした。何気なくあのシーン見過ごしたけど自分もああいう体験があって、気持ちに蓋をしてたけど自分もああいうの割と嫌だったなとか、コミュニケーションの上で大事な気持ちや注意点を気付かせてくれた気がした。そういう「後で考えるとあの時に登場人物は傷ついていたのだな」と分かるシーンが、最初に観た時には分からないように脚本が作ってあるのが凄い。

是枝監督がインタビューで、「この映画は恐らく、何かを告発している以上に、登場人物たちが祝福されているように思う。カンヌで上映後の観客は美しいものを見た後の顔をしていて、一緒に祝福してくれているような気がした」とも言っていたけど、「怪物が観客自身でもあるなら、自分も祝福される対象と考えていいのか…?」と思ったら自分も救われた気がした。
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