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マイ・エレメントのRのネタバレレビュー・内容・結末

マイ・エレメント(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年のアメリカの作品。

監督は「アーロと少年」のピーター・ソーン。

あらすじ

火・水・土・風の四つのエレメントが暮らす街「エレメント・シティ」。火の街で育った少女エンバーは家族のため、大好きな父親の店を継ぐために日々頑張っていた。そんなある日、偶然涙脆くて優しく自由な心を持つ水の青年ウェイドと出会ったエンバーは、自分の新たな可能性について考え始める。しかし、この街には「ちがうエレメントとは関わらない」というルールがあり、シティを揺るがす大事件が2人の元に降りかかる!

サマーシーズン、大作傑作が続々と公開される中で、やっぱピクサーは外せない!と思い、「クレしん」の最新作と迷って今作をチョイス!

お話はあらすじの通り、大元のディズニーは今までも「ズートピア」では動物の世界、「シュガーラッシュ」でゲームのキャラクターの世界を描いてきたけど、今作で描かれる世界はなんとエレメント!!

要は火や水、土や風といった「自然の成分」…。いやぁ、ディズニー及びピクサー行き着くところまでいったなぁ…という感じ笑。

ただ、そこは流石ディズニー、そして今年ディズニーが100周年ということもあるのか(今作冒頭のシンデレラ城ロゴのシーン含めて)気合い入りまくり!!冒頭から世界観がものすごいことになっている!

序盤、シティに越してくる主人公エンバーの両親のシーンから始まるんだけど、エレメントシティを訪れると水は青色、土は茶色、風はラベンダーやピンク色それぞれの階層ごとにカラフルに入り組んで色付けされるシティ全体の外観に加え、水のエレメントだったらサブマリン型の船でボトボトッと登場したり、風だったら飛行船で風のエレメントの乗客を降ろすとしぼみ、乗せると膨らむギミックがあったり、水上レールを走るとそこから涼やかな水飛沫が滝のように流れる列車、風のエレメントのスポーツ選手たちが宙に浮かびながらバスケ?をするスタジアム、森のように鬱蒼と木々が生い茂った市役所、そして火のエレメントたちが住む一角のサイバーパンクな感じと、まぁー一回観ただけでは拾いきれないほどのアイデアと想像力をこれでもかと詰め込んだ夢の都市そのものが広がっていて、もう本当観るだけで楽しい。ディズニーは毎度のことながら、こういう世界観の構築が本当に世界一すごい、ほんとにそう思う。

で、その中で「エレメント」だからこそ「できる」要素が詰め込まれているのがまた楽しい。例えば、主人公エンバーなら火の力を使って粉々になったガラスの破片を飲み込んでたちまち元の形に復元したり、その力を使って即席の熱気球に飛ばすことができるし、相手役のウェイドだったら、地面や狭い路地でも溶け込んで入り込むことができたり、土のエレメントなら体から花や果物を生み出すことができたり、風のエレメントだったら水中に気泡を作って即席の潜水艦にできちゃうなど、他のヒーロー映画でよくある「特殊能力」をこれでもかとスムーズに生活の術として活用していて面白い。

また、それに加えて、エレメントならではの感情表現。特にそれはウェイドに顕著で、性格的にめちゃくちゃ涙脆いので、滝のような涙や汗を噴き出したりとまるでギャグ漫画のように感情表現豊かだったり、エンバーも怒りっぽいのでキレると火の温度が上がり、体中の色が変わったり、風のエレメントでウェイドの上司のゲイルだったら、イライラすると大気が渦巻き、ゴロゴロピカピカと雷がその内部で光るなど、まぁこういうところも細かいねぇ。

一番興味深かったのが冒頭、エンバーの両親が使う「ファイヤー語」。「ジュウー」「ゴオォ」と火ならではの効果音それ自体が言語になっていて、シーンとしてはほんの僅かだったのが残念になるくらいアイデアとして新鮮でもっと要素としてあって良かった。

で、お話的にはこれがピクサー作品でこれまでにあったかってくらいゴリッゴリの「恋愛もの」。しかも描くのは「ピクサー版ロミオとジュリエット」的なお話になってくるところがまた興味深い。

というのも、このエレメント・シティのルールとして「他のエレメントと関わってはいけない」というのがあり、特に「火」のエレメントは他のエレメントたちよりも遅く社会関係を築いたこと、そして他のエレメントたちよりも特製上故意でなくても、危害を加えてしまう可能性があることで、迫害というまでもいかなくとも少なからずヘイトを買っているという設定があって、特に火と水はお互いが打ち消し合う特性上、一際忌み嫌う間柄。

ここら辺は肉食と草食の要素が重要なテーマとなっていた「ズートピア」に近い感じなんだけど、こちらはただ触れるだけで変化や弱体化が入ってしまうので深刻。

ということで、主人公エンバーとウェイドの異なるエレメントの種族を超えた禁断の恋が描かれるんだけど…。

前置きが長くなってしまったけど、結論から言えばビミョー!!と言わざるを得ない。

いい点から言えば、エンバーとウェイド2人のキャラクターは良かった。エンバーは怒りっぽいながらも、ちゃんと火の影響を受けないように周りの他のエレメントを避けながら自然と歩く感じとか自分の夢と父親の夢の間で次第に葛藤する、実はとっても優しい子でめちゃくちゃ好感が持てたし、ウェイドも涙脆くて心優しいという今どきの一癖ある男キャラが蔓延する物語が多い中で極めて好青年そのまんまな爽やかボーイだった。

2人の出会いはお互いの種族そのまんまな反発する出会いながらも、エンバーの父親のお店「ファイアプレイス」を存続させるために、行動を共にする中で、ウェイドがエンバーをデートに誘い、次第に心を通わせていく感じも良かった。

特にエンバーが幼少時に見たかった、様々なエレメントの住む環境下でも花を咲かせるヴィヴィステリア・フラワーを2人で見た後、橋の下で遂にお互いの肌を触れ合わせてダンスをするシーンはバックのエレメント・シティの鮮やかなライトアップと重なり非常にロマンチック。

ただなー、恋愛とはその障害が高ければ高いほど燃え上がるものとはよく言ったもので、その点で言えば、今作ほどその障害が高い恋愛はないんだけど、その障害自体は越えられなかったというか、端的に言ってしまえば浅い。

結局のところ、エンバーは父親の悲願であり、自分の夢だと思っていた「父親のお店を継ぐ」ということを途中から知り合ったウェイドとの出会いを通して、本当の自分の夢を見つけることになるんだけど、それが「火の力によってガラス細工を作る才能を活かしたお仕事」なんだけど、確かに伏線としては序盤からあるにはあるけど、それ自体、序盤の父親のお店を手伝う割合の方が大きいし、その中で別にエンバー自身面倒臭さを感じず、邁進している感じがあったから、急に「本当はお店を継ぎたくない!」とエンバーが言っても、なんかウェイドに感化されただけに感じてしまう。

だから、その後一旦はウェイドの誘いを振り切って、父親のお店を継ぐ記念のパーティーに参加するんだけど、そこに無理やりウェイドが割り込んで「彼女の本当の夢はそうじゃないんです!」と言われても、なんか飲み込みづらいというか受け入れ難いんだよなぁ。

他のディズニー作品でも、それまで親に決められたレールから、本当の自分の進むべき道を見つけるお話はあったけど、本作に関してはなんか無理矢理というか強引にお話をそっちに引っ張りこんだ印象。

よって、なんかそうは感じたくないんだけど、ウブな少女がナンパな男に唆されて都会に行っちゃう構図に見えちゃって…。

あと、せっかく世界観もステキ、とりあえず2人のキャラクターも良くて、しかも数々のロマンチックなお話を描いてきたあのディズニーなのに、記憶に残るロマンチックなシーンがない!

もちろん上記の橋の下のダンスシーンは良かったんだけど、シーンとして良かったのはそれだけで、せっかく中盤のデートで鉱石に乗るとエンバーの体色が緑や紫や青色に色が変わったり、ウェイドが川の上をまるで水上スキーのように滑ると虹がかかるという「ロマンチックの伏線」があるのに全然それを生かさないじゃないか💢!!

で、結果、2人が結ばれる決め手はなんの変哲もない「キス」。しかも、唇を尖らせているからかブッチュー!!というキスに個人的に見えてなんかロマンチックじゃない笑。

なんかディズニーの傘下であるピクサー、これまでの作品群を観ても真正面から「恋愛もの」を描いてこなかったことも含めて、ほんけのディズニーに比べると「恋愛もの」を描くのがもしかして苦手…?とそう感じざるを得なかった。

観終わった後、俺の後のカップルの1人が「なんか…うっすいねー。」と言っていたのが非常に印象的笑。

あと、その種族を超えた2人の恋愛が成就したのを皮切りにあっちでもこっちでも違うエレメント同士が結ばれていき、ブッチューしていくんだけど、なんか芸がない…。いや、お盛んなことそれ自体は良いと思うし、激しく羨ましいんだけど泣、なんかこれは人によってはものすごい侮蔑に感じるかもしれないけど「ソーセージ・パーティー」の終盤のあの乱交シーンに通じる「下品さ」みたいなものを感じてしまった。

せっかく、この多様性の社会(ちなみに今作しれっと同性同士のカップルも出てきます)、その特性やテーマ性から言ってもいくらでも良いものは作れそうだし、その土壌もあるにはあるのにそれを最大限生かしきれなかったという印象。

あと、恋愛描写関係なしに火と水のエレメント以外の土と風のキャラクターの影が薄すぎる!!勿体なさすぎ!!

うーん、久しぶりのピクサー、評判も高かったし、期待してたんだけど、個人的には微妙な作品となってしまった。

ちなみに、日本語吹き替え版はとっても良かった。有名人キャストはエンバー役の川口春奈は元の可愛さが垣間見える、とってもキュートにエンバーを演じていて良かったんだけど、それ以上に良かったのがウェイド役のキスマイ玉森裕太!!本職の声優さんでもなかなか出せないような感情表現を非常に豊かに声に抑揚をつけて演じきっていて、まともにそれまで彼の作品を観たことなかったけど、そのはまりっぷりに舌を巻いた。彼が吹き替えていたからこそ、ウェイドがナンパ野郎に感じず、好青年として受け入れられたし、魅力も倍増していた。

近年、色々あるジャニーズだけど、若手ジャニーズもあらゆる分野で、その才能を開花していて、彼らのような逸材だけは消えて欲しくないなぁ…。
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