耶馬英彦

みなに幸あれの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
2.0
 デフォルメした極限状況を提示することで、人類や社会のありようについて、その本質をあぶり出そうとしている意図はわかる。しかし古川琴音以外の俳優陣の演技が、あまりにも台詞の棒読みで、何も伝わってこなかった。

 無人島で孤独に生きていない限り、社会では誰かの益になる仕事をすることで、自分の生活を維持している。それが経済だ。一見、迷惑なことしかしないように見える政治家でもそうである。河野太郎みたいに国民が困ることを強引に押し付けようとする政治家でも、それは誰かの利益になることをしているのだ。だから選挙で当選する。利権というやつだろう。

 自分の時間と労力を提供することは、ある意味で人格がスポイルされることに等しい。しかし自分のやりたいことだけしていても生きていけない。だから自分にできる仕事をする。それは誰かの益になっているから仕事として成立している訳だ。誰もが提供者であると同時に、受益者でもある。
 その複雑さを一刀両断して、受益者はどこまでも受益者、提供者はどこまでも提供者ということに分断してみせたのが本作品だ。提供する側は人格をスポイルされるだけでなく、人権まで蹂躙される。社会の本質がそこにあるのだ、と言いたいのだろう。
 そして矛盾を矛盾のまま受け入れて、他人の人権蹂躙に目を瞑るのが大人になるということなのだという結論も、おぼろげながら想像がつく。だから本作品は古川琴音が演じた看護婦の卵が大人になる物語であるとも言える。
 作りようによっては面白いホラーになるプロットだと思うのだが、俳優陣の台詞の棒読みで、全部が台無しになってしまった。俳優陣の年齢などから考えても、あえて棒読みの演技をさせたのだろうが、その演出が完全に裏目に出てしまった感がある。怖くもないし、面白くもない。

 演技に定評のある古川琴音が主演するのと、上映前に満席だというアナウンスがあって期待値が高まっていたので、落胆は大きかった。
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