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霧の淵のtwitwilightsのレビュー・感想・評価

霧の淵(2023年製作の映画)
4.2
"親父は?"
"いいひんよ、軽バンないやろ"

詩的な、という感想も可能であろうが、個人的には、ちくちくと肌を刺す、とても現実的な演出表現を感じた。

奈良県川上村。静かに静かに流れゆく人々の営みをやおら覆う霧と靄。意図的であろうドキュメント・タッチにも難なく呼応する、天才水川あさみの凄まじい演技力。
舞台となった実在の旅館「朝日館」は、まさしく現代版"リアリズムの宿"だ。

監督の舞台挨拶は、神戸が最終日(鑑賞日)だった。身を乗り出して聞き入ってしまう。アスペクト比を「スタンダードサイズ」にした理由のくだりが最も興味深かった。本作のインスピレーション元として、ジョンフォード"わが谷は緑なりき"と、エリセ2作にあったことにも合点がいく(エリセ最新作「瞳をとじて」にもジョン・フォード「リオ・ブラボー」があった)。また、閉場後、監督に直接感想をお伝え出来るタイミングもあり、感無量であった。

素晴らしい撮影は、写真家で奈良県育ちの百々武氏。スチル画像のような刹那さと、強風に蠢く木々が脳裏に深く焼き付いた。それらの自然描写は、自らの故郷に近いこともあってか、全編、猛烈な既視感に見舞われたのだった。
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