twitwilights

悪は存在しないのtwitwilightsのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.5
音が始まるところと切れるところはとても大事なんですが、濱口さんの映画は、それをすごく大事にされているのが感じられます。あと、音楽をそれほど多く使っていなくても、とても印象的な心に残る使い方をされていると思います。音楽家としては、とてもありがたいことです。(石橋英子)

「ドライブ・マイ・カー」での幸福な邂逅に次いで、石橋英子自身のライヴ・プロジェクトの映像依頼が本作に繋がったとのこと。不協和音一歩手前の旋律がとても印象的な弦楽奏。同時にそのサウンドが与える既視感のような余韻は、実演奏に参加しているジム・オルークの存在で納得した。

監督自らインタヴューで答えているが、ベネチアで実際に指摘されたという、ジャン=リュック・ゴダール作品からの影響が興味深い。個人的には、本作のグラフィカルなタイトルイン以上に、この劇伴の配置とエディットからその影響を感じてしまった(特に「女と男のいる舗道」を強く想起した)。画面遷移に合わせ“反復”と“休止”を行うその音響は、不穏を与えつつも、えも言われぬ中毒性がある。そんな音楽家ミシェル・ルグランとゴダール監督との関係性を、今作の石橋=濱口コンビに投影してしまったのだった。そしてなにより、本作全体のテンポもこの“反復”と“休止”の運動性に沿って成立していた。

”だるまさんが転んだ”シーン含め、唐突に電子音的な劇伴が挿入される箇所には、猛烈に”森田芳光”みを感じた。また、あの壮絶なラスト・シークエンスから思い浮かんだのは、ロドリゴ・ソロゴイェン「理想郷」だった。それ以外では、エリセ「ミツバチのささやき」(アナ→花)、モハマド・ラスロフ「悪は存在せず/There Is No Evil」(タイトル)。北野武「ソナチネ」(車内シーン)。ヨルゴス・ランティモス「聖なる鹿殺し」(主題)。宮崎駿「もののけ姫」(ロケ地)、ロベルト・ロッセリーニ「イタリア旅行』、ヴィム・ヴェンダース、アッバス・キアロスタミ、以上は監督インタヴューより。
twitwilights

twitwilights