このレビューはネタバレを含みます
借金取りに追われるミッキー(ロバート・パティンソン)は、「エクスペンダブル(使い捨て)」の仕事に応募し、惑星の開拓に向かう宇宙船に乗り込む。死んでも記憶とともに体を再生されるリプリンティング技術により、壮絶な任務に繰り返し就かされる彼は、宇宙船のエージェント・ナーシャ(ナオミ・アッキー)との恋愛だけが唯一の楽しみだった。ある日、任務中に陥った窮地から思わぬ形で基地に生還したミッキーだったが、そこにいたのは新たに複製された自分自身で…。
『パラサイト 半地下の家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールとアカデミー賞作品賞を獲得して頂点を極めたポン・ジュノ監督だが、その次の作品として、はるか彼方の宇宙でコピー人間たちが巨大ダンゴムシとお喋りする映画を撮るのがなんとも彼らしい。前作を超える最高傑作を目指すような変な気負いはなく、良い意味で肩の力が抜けたシニカルなSFブラックコメディとなっていて、個人的には好きなノリの作品だった。
序盤から主人公の内面ナレーションが多い作りには若干戸惑ったが、今回はとにかくロバート・パティンソンの魅力が際立っており、ミッキーの愚痴を聞くようなナレーションも意外と楽しい。ヘナチョコな17号の気弱で飄々とした佇まいと、衝動的で若干のサイコパス感がありつつも熱い想いを持った18号の演じ分けは、この一人二役設定に期待した楽しさを十分超えるものがあった。同一人物にしてはキャラが違いすぎる気もするが、ミッキーがコピーされる際に脳に繋がるプラグが抜けてしまう場面が挿入されており、あれが18号なのかは分からないが、手違いで不完全なコピーが生まれることもあるかも…という説得力は一応ある作りになっている。
原作の『ミッキー7』からミッキー“17”への改変は、映画的見せ場となり得る主人公が死ぬ場面のバリエーションを増やすためかと思ったが、そのほとんどがワクチンや毒ガス開発のための生体実験によるあまりにあっさりした死となっていた。結果的には、よりリプリンティングの残酷さが際立つ描写となっており、作り手が単に面白可笑しい場面にしなかったことには、少しハッとさせられた。
カイ役には以前ポン・ジュノ監督が絶賛(自身が審査員長を務めた第78回ヴェネツィア国際映画祭でパルム・ドールを授与)していた作品『あのこと』の主演アナマリア・バルトロメイを起用。ここからも“やりたいことをやったる!”というウキウキ感が伝わってくる。そして彼女がマーシャルたちとの会食の席で発する言葉には、『あのこと』と通じるものが確かにあった。ナーシャのパワフルな人物造形含め、女性キャラクターの表現はさりげなくも現代的な感覚を感じる。
素朴なクリーチャー愛が炸裂しているのも楽しい部分だ。そんな簡単に翻訳機ができちゃうの?というツッコミはさておいて、リアルな芋虫感は保ちつつも絶妙に可愛いデザインがなんともチャーミング。ミッキーとの絡みでは。「俺はおいしいぞ!味は保証する!」のセリフに笑ってしまった。
エンディングでは、ミッキーはあり得たかもしれない別の人生の可能性の象徴ともいえるリプリンティング装置を自ら破壊する。他人に握られていた人生の選択権を取り戻し、完璧ではなくとも今の自分を肯定する結末は予想外の温かさと優しさに満ちていた。