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君たちはどう生きるかのnatitaのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

事前告知一切なしの真っさらな状態の映画体験を、宮崎駿の新作で出来るなんてなんて貴重なんだろう。この作品をどう捉えるのか、これを見た一人一人が、私が、決めていいんだと思えた。

目まぐるしくて目が回った。悪い夢を見ているみたいだった。飛び起きてすぐは怖くて、暫くは覚えているけれど、だんだんと忘れていって、微睡んでいる時にだけふと思い出しては忘れる、悪い夢みたいだ。

ずっとそんなシーンが続いていて、不思議と「見たことがある」感覚になった。そして祖母に育てられたので、たくさんのおばあちゃんたちが出てきて、祖母のことを思い出している。私の祖母も、私の周りで見守ってくれていたらいいなと思った。たとえ生まれ変わったとしても、そばに居てほしいなと思った。

大人は無責任で、こどもに罪はない。大人は、こどもが居るから大人と呼ばれているだけであって、ずっとずっとこどもだ。嘘をつくし、悪さもする。大人の愚かさが作った世界が冒頭から広がっていって、ただそこにあるという残酷さに、苦しくなった。

眞人は母を想って泣くことはあっても、感情的になるシーンがほとんどなかった。こうやってこどもは想いをお腹の中に閉じ込めて、貯めている。不思議な世界では大きな波が立つし、鳥が殺生をして、思い出の中にいる母親は苦しんでいる。

お腹に子がいる母親の妊娠と出産を、かなり恐ろしく描いている。それは呪いであり、祈りであり、現実であり、夢であり、私であり、あなたであり……人はみな母親から生まれてくる、ひとりでに生まれてくることはできない。その恐ろしさも感じながら、それでもそこには喜びや愛があるとこどもに分かるように語られたり、描写されていて良かった。

かなりパーソナルな部分に触れてくる映画だった。映画を見ていて、これは私だと思ったり、ここには私はいないと思ったりするのだけど、この映画は、例えば夢の中で、その場所にいる私を俯瞰で見ているような気にさせてくれる、不思議な映画だった。

泣いたり怒ったりせず、静かに淡々と、今私が生きているこの世の惨さを教えてくれているような気がした。それでも生きていかなくてはいけない。観ながら自分に潜りすぎて、作品的にどうだったか、上手く書けない。走馬灯みたいだったとも言える。

何度かおばあちゃんになりたいと思った。いつか私もおばあちゃんになって、そばに居てあげられたら。私の祖母がそうあったように、そうしてあげたいと思った。
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